「なあ。俺を臆病者の虫けらと呼べよ」
「臆病者の虫けらくん」
「嫌いじゃねーな」
「なな、なにそれ!」
ゆめこがケタケタと笑う。
それなりになんでも手に入れてきた。
でも人の心は自分の都合よくいかない。
とくに、コイツのことだけは、傷つけないように、壊さないように、ずっと大切にしてきた。
大切にしすぎて、触れることもできずに、あっさりと他の男に持っていかれてしまったけど。
「お前って、今、幸せ?」
「うん、すっごく幸せ」
ならいいや。
いや、よくねーけど。
全然よくないけど、好きな人が不幸よりはいいだろ。
本当は俺が幸せにしたかったけど。
誰よりも近くにいたかったけど。
俺のことを大切な幼なじみだと思ってくれてるお前に、好きなんて言えなかったよ。
「そーへーて、きっと自分が思ってる以上にいい男だよ」
「だろ?」
「だから、そーへーも幸せになれるよ」
ゆめこがスカートを叩きながら立ち上がる。おそらく先輩の元に行くんだろう。
「なあ、ゆめ」
「うん?」
「ずっと笑ってろよ、そうやって」
夏の終わりって、やっぱり虚しくて、心が痛くなるけど、その痛みが俺を少しだけ大人にさせた――。
fin.



