冷たい病院のベッドの上で、彼女のぬくもりを思い出す。
好きだと言うことは、簡単だった。
だけど、それをどう伝えていいのかが分からなかった。
伝えたところで、彼女がどう思うかは、俺には分からない。
すれ違う廊下で、見かける講堂の隅で、彼女が微笑む姿を見ただけで、息が途切れた。
彼女の隣に座る。
講義が始まる。
俺はテキストを見ているフリをしながら、隣の彼女の指先を見ている。
白い指の先についた丸く短い爪が、これほど愛おしいと思ったことはなかった。
俺がページをめくるその指の先を、彼女も同じように見てくれていたらいいのに。
「お昼は何食べるの?」
講義が終わった瞬間に、彼女はそう聞いた。
「分かんない」
「なにそれ」
そう言って笑ってくれたから、もういいんだ。
俺には「一緒に食べる?」の一言が言えなくて、席を立つ。
「一緒に食べる?」
そう言ったのは、間違いなく彼女の方だった。
「食べる」
全身の力が抜けてしまったようで、俺はそこにまた腰を下ろした。
「何食べる? 何が好き?」
「なんでもいい」
「あー、じゃあ、うち来る?」
その日、俺は初めて彼女の一人で住む家に足を踏み入れた。
好きだと言うことは、簡単だった。
だけど、それをどう伝えていいのかが分からなかった。
伝えたところで、彼女がどう思うかは、俺には分からない。
すれ違う廊下で、見かける講堂の隅で、彼女が微笑む姿を見ただけで、息が途切れた。
彼女の隣に座る。
講義が始まる。
俺はテキストを見ているフリをしながら、隣の彼女の指先を見ている。
白い指の先についた丸く短い爪が、これほど愛おしいと思ったことはなかった。
俺がページをめくるその指の先を、彼女も同じように見てくれていたらいいのに。
「お昼は何食べるの?」
講義が終わった瞬間に、彼女はそう聞いた。
「分かんない」
「なにそれ」
そう言って笑ってくれたから、もういいんだ。
俺には「一緒に食べる?」の一言が言えなくて、席を立つ。
「一緒に食べる?」
そう言ったのは、間違いなく彼女の方だった。
「食べる」
全身の力が抜けてしまったようで、俺はそこにまた腰を下ろした。
「何食べる? 何が好き?」
「なんでもいい」
「あー、じゃあ、うち来る?」
その日、俺は初めて彼女の一人で住む家に足を踏み入れた。



