俺が初めて彼女を見たのは、大学のキャンパスだった。

桜の花びらが舞い散る下で、それが降りてくるのを、彼女はまぶしそうに見上げた。

大学ゼミの新歓を兼ねた花見の席でみかけたその仕草を、俺はその日、一日中繰り返し反芻していた。

「お疲れさまでした。これからよろしくね」

そう言って挨拶を交わしてから、解散になるはずだった。

これから帰るという彼女の隣を、なんとなく並んで歩いた。

ふと見かけた植え込みに一輪の花が咲いていて、名もないその小さな花を俺は摘み取った。

「あげる」

差し出したそれを見て、彼女は驚いたようだった。

「わ、何の花かな。なんだろうね、これ」

なかなか受け取ろうとしないので、俺はその小さなピンク色の花を、彼女の鼻先に押しつける。

「だから、あげるって」

ようやく差し出した手の平に、彼女に触れないようにそっと手渡す。

「ありがと」

それだけで、俺は満足だった。