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 大学の夏休みってのは、どうしてこうも無駄に長いのか——。

 お陰様で、合コンに呼ばれてはそのまま朝まで飲んだくれて……。たまにモデルのバイトをしては、そのまま遊びに出掛けて飲んだくれて……。
 もはや、何が楽しいのか自分でもわからない。ただ、毎日が飲んだくれのパーティーだ。
 

(これじゃ、”大学生”じゃなくて”大遊生”だな……)


 なんて思っていた去年までのアホな俺は、もう、ここにはいない!
 ピッチリと七三に分けた髪に真面目そうな黒縁眼鏡をかけ、今日もパリッとのり付けされたシャツをチノパンにインしてキリリと顔を引き締める。

 今年の俺は、一味違う。去年までは無駄にダラダラと過ごしていた夏休みも、今年は充実した日々を送ると決めたのだ。
 叶うものなら、この充実した日々が一生続きますようにと。そればかり願い続けながら……。

 ——それはなぜなら!
 夏休み期間中は、普段よりもカテキョの時間が増えるから♡

 普段は週1・2で通っていたカテキョも、夏休み期間中は週3へと増えた。カテキョの時間が増えたのは勿論、美兎ちゃんが高校受験を控えた中学3年生だからっていう、ちゃんとした理由はあるのだが……。
 正直、美兎ちゃんはかなり優秀なので増やす必要はなかった。

 けれど、折角の機会をみすみす自ら放棄するわけもなく……。母親から勧められたこの提案を、俺は快く引き受けることにした。
 それはつまり——!

 単純に、美兎ちゃんと一緒に居られる時間が増えただけという、俺にとってナイスな展開となった。


(……今年の夏はっ! ”大遊生”ではなく”大恋愛”に励みます……っ♡♡♡♡)


「——瑛斗先生っ! 水分補給しに、あの河原まで行こっ?」

「うんっ♡ ……階段、気を付けてね(マイ・ワイフ♡)」


 キリリとした顔から瞬時に破顔させると、鼻の下を伸ばしてフラフラと美兎ちゃんの背中を追い掛ける。
 こうして、カテキョ終わりに『山田』の散歩に付き合うこともいつしか習慣となった。まぁ……少しばかり、この空間に『山田』がいることが邪魔ではあるのだが。【散歩】という名目な以上、仕方がない。


(……邪魔だけはするなよ、山田)


 プリプリとケツを振って歩く仔犬を眺めながら、心の中でそんな釘を刺す。