死のうと思った日、子供を拾いました。

 真希さんは面接を受けることになった。

 なぜか、俺が学校の保健室に愁斗と向かっている。

 絶対に先生に、「愁斗くんとの関係は?」って聞かれるだろ。近所のことしか言えないぞ?

 せめて新と一緒に来るべきだった、あいつなら体のいい嘘が思いつく。きっと。

「姉ちゃん、なんの面接」

「書店員らしい。学生もOKだからな」

 本が好きな人は目指しやすい仕事だよな。資格もないし。

「ふーん。何すんのそれ」

「詳しくはわからないけど、本を売ったり探したり。楽器屋この前行っただろ、あそこの十倍くらいは本がある」

「ふーん、楽しそう。俺、本好き」

 絵本や漫画は愁斗も読めるからな。

「はは、もう少し大きくなったら愁斗もやるか」

「うん。流希もな」

 足が止まってしまう。

「愁斗、俺はそんなことができるほど元気じゃ」

「うるっせえな、知ってるよ! これから元気になんだろ?」

 前を歩いていた愁斗が振り向いて、俺に近づく。動けない。

 やめてくれ。そんなふうに、言わないでくれ。元気になんか、ならないから、きっと。


「どうやってなるんだ」

「はぁ。恋人が生き返って欲しいか、そんなに」

 ため息をつかれてしまう。

「欲しいに決まってるだろう! 夏菜は、俺の全てなんだ!」

 声が枯れる勢いで叫ぶ。俺には夏菜しかいないのに。

「俺は恋とか、愛とかわかんねぇ。わかるのは、あんたはそいつがいなくても生きていけること。昨日も一昨日もそうだった」

 ますます近づいてくる。後ろに下がって、震えながら声を出す。掠れている。

「っ、ただ生きるのと、幸せを噛み締めながら生きるのは違う」

 愁斗が目を見開いてしまう。

「もういい。学校は一人で行く」

 走り出してしまう。追わないと。

 あ。足が動かない。

 受験をさぼった、あの日のことを思い出す。あの日もこうして、俺は立ち止まった。

 何も変わってない。俺はずっと弱い。

「……はは、生きていけねぇよ」

 から笑いをして座り込む。涙が頬を伝う。

「くそガキだ、俺」

 猫のために命を張った夏菜の方が、よっぽど大人だよ。

 不意に、夏菜のお父さんから電話がかかってくる。

『流希くん? どうしたんだい? 仕事入った?』

 え? 慌てて、スマホのカレンダーアプリを起動する。

 あ! しまった。今日葬式の日だ。

 忘れていたわけではない。葬式がいつかなんて考えずに行動してしまっていたんだ、俺。元気なふりをしたり落ち込んだりしてばかりで、スマホを見ていなかったから。

 葬式は十九時からだから、今迎えば余裕で間に合う。……いや、きっと今は夏菜に会いにいくべきじゃない。

 地図アプリを開いて、愁斗が向かっている、学校への道順を検索する。

 辿り着ける自信はない。もしかしたら着いた途端に、泣くかもしれない。いや、もっと前で泣くかも。なんで夏菜が隣にいないんだと思って。

 それでも行かないと。でないときっと、夏菜に、呆れられてしまう。

『すみません! 急用が入ってしまいまして……葬式には間に合いますので』

 嘘だ。テストが何分で終わるのかも、テスト後、真希さん達とご飯を食べに行くかもわからない。でも俺がもし夏菜だったら、今生きている人のことを優先する。俺は夏菜じゃない。でも、そういう人になりたい。