「親御さんは、どうしているんですか」
「……別の家で暮らしています。あっ、捨てられたんじゃないですよ。たぶん愁斗は、それと同義だと思ってますけど」
「どういうことですか」
「……はぁ。あんた、知らね? 仁多花音って女優。それが俺らの母親」
シャワーを止め、カーテンから顔を出さないで愁斗はいう。
話す気になってくれたのか。
「仁多花音って、あの有名女優の……?」
彼女は、十三年ほど前までかなり人気だった女優だ。ドラマやCMに引っ張りだこで、当時テレビで見ない日はなかった。
「そ。そいつ、不倫しただろ。それで生まれたのが俺」
彼女は十八年前同じ芸能界の男と結婚し、その五年後、不倫したとテレビや新聞で報道され、姿を消した。芸能活動自粛を余儀なくされて。
「……俺、一度も学校に行ったことがないんだよ。仁多って珍しい苗字だろ。だから、学校とかいったら、あの女優から生まれた子供だってすぐわかんだ。不倫だから父親の苗字を名乗ることにならないのは明らかだったからな。それで母親は自分がそういうことをしたせいで俺が嫌われていじめられるようになるくらいなら学校なんて行かせないで家で育てた方がいいと思って、俺を十二年家の中で育てた」
なんだそれ。考え方が極端すぎる。
「は? 頭おかしいだろ」
「だよな。いじめられるとかそういうのは可能性の話だし、一生いじめられ続けるわけでもないのに勝手にそう決めつけて、あいつは俺の人生をぶっ壊そうとした。だから俺は毎日、必死であいつから逃げたよ。でもいつも捕まって連れ戻された」
チャリや車で追われたのか?
「学校に通いたいって言ったことはないのか?」
「ないわけねぇじゃん。でもいつも『愁斗は絶対学校に通わない方が幸せになれる。だから私といつまでもここで暮らそう?』って言われた」
思い込みがすごいな。
「……それで見かねた父親が流石に可哀想だっていってくれて学校には通えるようになったけど、それでも俺は母親を許せなくて一緒に暮らす気になれなかったから家出した。それを姉と父親が追ってきて、今がある。母親のせいで中学から学校通うハメになったから授業はついていけねぇし、友達の作り方は分かんねぇし、何も楽しくねぇの」



