死のうと思った日、子供を拾いました。

「ああ、30だ。そうなる理由がわかればちゃんと解けるだろ?」
 頭を撫でてやった。
「うん」
「ならもう自分を馬鹿だなんて言うな。愁斗は馬鹿なんじゃなくて同級生より解き方を知らないだけなんだから」

 愁斗が目を見開いた。

「俺って馬鹿じゃないの?」
 勉強ができなすぎて、そのことすらわからないのか。

「ああ、そうだ。だからこのまま勉強すれば、すぐに掛け算も割り算もできるようになる」
「じゃあもう少し勉強してみようかな」
「ああ、もう少しだけ頑張れ。同級生に追いつくかなんて気にしないで、ちゃんと愁斗のペースでな」
「え、追いつかなくていいのか?」
「ああ、周りなんて気にしなくていい。大事なのは愁斗が勉強を嫌いにならないで、ずっとし続けることだ」
 そうすればきっと、いずれ同級生に追いつくハズだ。

「それだけ?」
「ああ、それだけだ」
 俺はしっかりと頷いた。

「流希さん先生みたい」
 真希さんが笑いながら言う。

「え、大袈裟ですよ」
「そんなことないです。とてもわかりやすかったですよ」
「ありがとうございます」
 思わず口角が上がった。

「姉ちゃん他に何買うの?」
「んーお米はまだあるからじゃがいもときゅうりとにんじんかな」
「ポテトサラダ作るんですか?」
「はい。それと肉じゃがも」
 三人で野菜売り場のコーナーに行って言われた通りのものをカゴに入れた。
「流希早くー」
 夜ご飯の買い物が済んだら、愁斗に手を引かれた。
 そのまま歩いていたら、十分もしないうちに楽器屋がある駅ビルに着いた。


 何を買えばいいんだ。歌の楽譜なんてありすぎて、全然何が良いのかわからない。こういう時夏菜がいたら……って、ダメだダメだ。

 夏菜はもういないんだ。

「流希、じーっと楽譜見てどうしたんだよ?」

 愁斗に声をかけられて、慌てて首を振る。

「ああ、そうだった。楽譜は好きなのを選んでいいからな」

「……じゃあ前に流希が歌ってたのがあるやつ」

「ん、わかった」

 翼をくださいが載った楽譜を買って、俺は愁斗と真希さんと店を出る。