死のうと思った日、子供を拾いました。

「愁斗、私は死んでも愁斗から離れないよ?」
「就職先が決まっても、恋人ができても、結婚することになっても俺の隣にいんの?」

「そうだよ? 離れるわけないでしょ。愁斗は私の大事な弟なんだから」

 愁斗が下を向いた。

「血が繋がっててもそばにいてくれない奴もいる」
 真希さんのお父さんのことか?
「うん、そうだね。でも私はそうじゃない。そういう人を知っているからこそ、ずっと愁斗のそばにいたいと思ってるよ」
「本当に? 嘘じゃない?」
「もちろん!」
 真希さんが愁斗の頬にキスをした。

「ね、姉ちゃんここ店。……でも、ありがと」

 愁斗が歯磨き粉を俺に渡した。
 頬が真っ赤だ。
 チョコレート味なんてあったのか。

「いちごじゃなくてよかったのか?」
「いい。それ使ったことないから」
「チョコレートなんてあるんですね、私初めて見ました」

 歯磨き粉を触りながら真希さんは言う。

「俺もです。いちごやバナナはよく見るんですけどね。こういうのって虫歯できないんでしたっけ?」
「できないハズです。一応歯磨き粉ですから」
「じゃあ、レジに行きましょう」
 お会計をしに、薬局の出入り口のそばにあったレジに行った。

「流希さん、夜ご飯の買い物も今していいですか?」
 薬局と隣り合わせにあったスーパーを見ながら真希さんは首を傾げた。
「はい」
「あ! 愁斗、卵とって」
 真希さんが冷蔵コーナーにあった卵を指差した。

「問題。2×10は? それ使って考えてみて」
「今勉強すんの?」
 愁斗がげんなりとした顔をして真希さんを見る。

「そう、今! 答えわかりそう?」
「いや」

「愁斗、その卵何個ある?」
「二十個」
 それが答えなんだけど。
 気づいてなさそうだな。

「じゃあ、二が何列で二十個だ?」
「えっと一二、三……十列? あ、2×10は20!」
「ああ、2×10は20だ。じゃあ3×6は? それ使ったらできるぞ」

「3×2は6で、それが3つあるから6+6+6で18?」
「ああ、18だ。じゃあ6×5は?」

「え、わかんない」

「3を5にするには何個足せばいい?」
「二個」
「そ。つまり6×5から6を2つ引いたのが18」
「あ、じゃあ二個足せばいいのか。18+12で、30!」
 愁斗は嬉しそうに声を上げた。