死のうと思った日、子供を拾いました。

★★

 真希さんと愁斗の部屋に行ってスーツケースに服や歯磨き粉を詰めると、俺達はすぐに薬局に向かった。薬局に着くと、愁斗はすぐさま歯磨き粉売り場に向かった。

 はあ。たぶんまだ、さっきの俺と真希さんのやりとりのせいで拗ねてるな。

「真希さん、いいんですか? あんなにからかって。また叫んだりしたら」
 愁斗の後ろ姿を見ながら、俺は言った。真希さんが勢いよく首を振る。
「アハハ、あんなことで叫びませんよ。それくらい、流希さんもわかってるんじゃないですか?」
「はい。でも一度や二度ならまだしも何度もからかったらそうなってしまう気がして」
 愁斗は俺と初対面の時よりは多少性格が丸くなったがまだまだ怒りっぽいし泣き虫だ。それなのにあんまり挑発するのはよくない気がする。

「まあ確かに、なにごともやりすぎはよくないですもんね。でもつい、からかいたくなっちゃうんですよね。あまりに素直なので」
 その言葉を聞いて、昨日真希さんから来たメッセージを思い出した。

「それって俺もですか……?」
「はい。流希さんも愁斗ほどではないですけど、相当からかい甲斐がありますよ?」

 じゃあ昨日の『夏菜さんの死を流希さんが乗り越えたら、二人で出かけても構いません』ってのもやっぱり嘘だったのか。

「もう勘弁してください。昨日みたいなのは」

「えーどうしてですか。昨日の流希さん可愛かったのに」

「だからやめてくださいって。愁斗に怒られますよ? いっ!!」

 足を踏まれた。
 顔を上げたら、目と鼻の先に愁斗がいた。

 いつの間に戻ってきたんだ? 

「いった!! し、愁斗、どかして」

 足の指がめちゃくちゃ痛い。

「はあ……。あんたのじゃないから」
「ああ、愁斗の真希さんだよ」
 あ、よかった。足どかしてくれた。

「愁斗、私は愁斗のものでも流希さんのものでもないよ?」
 真希さんが愁斗を背後から抱きしめた。

「じゃあなんなんだよ」
「愁斗だけのお姉ちゃんだよ」
「……ずるい、そういうの」

 愁斗が頭を下げた。

「ごめん。あんたがわざと姉ちゃんと仲が良いのを俺に見せつけようとしてる訳じゃないのも、姉ちゃんはあんたと仲良くなっても俺から離れないって信じた方がいいのもわかってる。でも反応しちゃうんだよ。姉ちゃんが好きだから」