死のうと思った日、子供を拾いました。


「真希さん、愁斗って本当にいい子なんですね。それが今日、身に染みてわかりました」
 愁斗は仲良くないやつから意見を言われても、決してそれを無下にしないで聞くことができるし、わからないことがあれば躊躇わずにわからないと言うことができる。それに、わかったことがあったら、もう一度歌を歌ったり俺に確認をしたりしてきちんと復習をすることもできる。

 あの家庭環境で、よくこんな子が育ったな。

「愁斗は真希さんの教育の賜物ですね」
 真希さんは勢いよく首を振った。

「私は教育なんてしてないですよ。ただご飯を作ってアパートの部屋の掃除をしてお金を稼いだだけです。私がそうだったから、それに父親にもろくに大切にされないで、母親にも間違った教育をされたから一人で前に進もうとした結果、運良くいい子に育ったんです」

 悪い子に育つ可能性もあったってことか?


「運が悪かったら、万引きや人殺しをしていたかもしれないってことですか?」

「はい。愁斗はたまたま万引きをしたらダメなことも、人を殺したらダメなことも、人の話を真面目に聞かないといけないことも知る機会があっただけです。だから私は、愁斗のその性格が歪まないように最善を尽くさないといけなかった。それなのに私がそうしなかったから、愁斗は壊れそうになってしまった。不甲斐ない姉で、本当にすみませんでした」

 俺の隣に来て、真希さんは床にひざまづいた。

「不甲斐なくなんかないです。真希さんはとても立派です。大人でも、たった一人で何ヶ月も試行錯誤をしながら子供を育てるなんてなかなかできたことじゃないのに、それをしたんですから」

 腕を掴んで顔をあげるように促したら、真希さんの瞳から涙が流れていることに気づいた。俺はポケットからハンカチを取り出して、真希さんの涙を拭った。

「流希さん、お願いがあるんです」
「はい?」
「私と一緒に、愁斗を育ててくれませんか」