死のうと思った日、子供を拾いました。

「流希さん、入って大丈夫ですか?」
 廊下から真希さんの声が聞こえてきた。俺が声を出して頷くと、真希さんはすぐにドアを開けて部屋の中に入った。

 真希さんはおぼんを持っていて、その上にはコップが二つ横並びで置かれていた。コーヒと紅茶か。真希さんはお盆を机に置くと、すぐに俺にコーヒーが入った方のコップを渡してくれた。

「ありがとうございます」
「いえ。すみませんでした。今日は新太さんもいるのに愁斗とたくさんお話をさせてしまって」
「ああ、大丈夫です。今新太は?」
「流希さんの家の冷蔵庫に一個だけあった缶ビールを私が目を離した隙に飲んでいたので、財布を没収して、流希さんの部屋のベッドに連れて行きました」
 はあ。
 たっく。無駄に目敏いな。
 高校生に何させてんだよ。

「うちのバカがすみません」
「いえ、大丈夫ですよ。部屋までちゃんと自分の足で歩いていましたから」
 笑顔で、真希さんは応じた。
 俺は思わず机に額を突っ伏した。

「本当にすみません! 未成年の前で堂々と酒を飲んで、挙げ句の果てにはスーパーにビールを買いに行こうとするなんて、体たらくにもほどがありますよね」

 財布を没収したなら、買いに行こうとしたと考えるのが自然だ。新太ならそういうこともやりかねない。

「顔を上げてください。本当に大丈夫ですから」
 真希さんの清らかな心に感謝して、俺は頭を上げた。

「さっきまでずっと、愁斗とお話してくれてたんですよね?」
「ああ、はい。まあ大したことは話してないですけどね。ただ泣きたい時は泣けばいいって伝えただけです」

「十分大したことです。歌も教えてくれたんですよね? 愁斗、さっき楽しそうに鼻歌歌いながら歯磨きしてましたよ」
 そうなのか? 嬉しくて、つい頬がゆるんだ。
「今愁斗は?」
「新太さんのところに連れて行きました」
「ああ、そうですか」
 それなら当分は真希さんと話ができるんだな。ちょうどよかった。俺もゆっくり、真希さんと愁斗の話がしたかったから。