死のうと思った日、子供を拾いました。


「五歳の時、アンパンマンみたいに人を助けられて、ピンチの時はちゃんと助けを求められる人になりたいと思った。でも俺は母親から逃げることしかできなかった。何年経っても、俺はその時のままだ」
 愁斗は力を込めて手首を握った。瞬く間に手首が赤くなって皮が剥けた。慌てて愁斗の腕を掴んで首を振った。

「……逃げることも甘えることだ」

「え、そうなの?」
 愁斗が目を見開いて俺を見る。

 逃げるのは卑怯者がすることだって言う人もいる。けれど、俺はそうは思わない。辛い現実から目を背けたらダメだとか、逃げたら笑われるとか考えて無理に働いたり無理に学校に行ったりしてメンタルを壊すよりは、環境を変えた方がよっぽど自分にいいから。

「ああ。お前は甘えたんだよ。だから真希さんが助けに来てくれたんだ」
 愁斗が俺から目を逸らして、ぼそりと呟く。
「姉ちゃんが助けに来たのは、俺に同情したからだろ」
 そんなわけないだろうが!
 俺は愁斗にデコピンをした。

「同情で何年も育てられるわけないだろ」
 愁斗は赤くなった額を両手で触りながら、尖った口で言った。
「まだ一年経ってない」
 細かいな。
 そこは突っ込まなくていいだろ。ただそうだなって言えばいいのに。可愛くないやつめ。

「高校生が同情で、お前を何ヶ月も育てられるわけないだろ」
「俺ってそんなに面倒臭い?」
「うーん、取っ付きにくいな」
「とっつき?」
 愁斗が不思議そうに首を傾げて、俺の顔を覗き込む。
 あ、意味わかんないのか。

「誰かと進んで話そうとしたり仲良くしようとしたりしない人を取っ付きにくい人って言う。俺に会う前から、そういうところがあったんだろ?」
「ああ。むしろ家にいた時の方が誰とも話そうとしてなかったかも」
 母親のせいで、二人暮らしをする前の方がより警戒心が強くなっていたのか。

「真希さんはそんなお前が甘える姿を見れて嬉しかったから、助けたんだよ。だからお前はきっとすぐに、泣きたい時に泣けるようになる」
「嘘じゃないだろうな?」
 愁斗は眉間に皺を寄せて、探るような目で俺を見た。

「ああ。じゃあな。夜更かししないで、早く寝ろよ」
 愁斗の頭を撫でてからベッドを降りた。