死のうと思った日、子供を拾いました。

「えっと……」
 愁斗は口を閉じて下を向いた。
 友達から誘われているから嫌だとは言いづらいけど、学校には行きたくないから返事を決めかねているのか?
「ダメ?」
「いや……一緒に行こっか」
 愁斗は郁也から目を逸らしてため息をついた。

 さすがに愁斗も友達からのお願いは無下にはできないか。きっと俺や新太に何かをお願いされたらすぐに無下にしていたんだろうな。

「うん! 学校が終わったら一緒に帰ろうよ! 僕、授業終わったら愁斗の学校の校門で待ってていい?」
「郁也、愁斗くん部活やクラブ活動があるかもしれないでしょ?」
「大丈夫ですよ! 愁斗は帰宅部ですから! ね?」
 笑顔で真希さんは言った。
「え、う、うん」
「やった! じゃあ住所教えてよ! 明日ピンポンするから!!」
「あーうん」
 愁斗は浮かない顔をしてポケットからスマホを取り出して、郁也と連絡先を交換した。

「姉ちゃん、さっきわざと帰宅部だって言っただろ」
 郁也がトイレに行ったところで、愁斗は机に頬杖をついて不機嫌そうに言った。
「うん。だって愁斗、ああいう約束がないと学校行ったってすぐに帰るでしょ?」
「帰んねぇし!」
「本当に? 郁也くんとの約束がなくても、毎日放課後まで学校にいるって約束できる?」
 愁斗は何も言わず、下を向いた。

「大丈夫。今からちゃんと行けば掛け算だけじゃなくて割り算もそのうちできるようになるし、漢字だって書けるようになるから」
「ハッ。そのうちっていつだよ。同い年のやつらが中学を卒業する頃か? それとも、大学生になる頃か?」
 真希さんを見つめて愁斗は吐き捨てる。

「愁斗、大丈夫。そんなに遅くならない。もっと早くできるようになるから」
 真希さんは愁斗を抱きしめて背中を撫でた。

 愁斗が真希さんの手を振り解いた。

「嘘つくんじゃねぇよ! あんたは俺が同級生に追いついて、ちゃんと高校を卒業していい会社に就職しないと俺をいつまでも育てる羽目になるから、できるようになる根拠もないのに俺を励まそうとしてるだけだろうが!!」

 流石に言っていいことと悪いことがある。
 頭が良かろうと悪かろうと、いい会社に就職しようとそうじゃなかろうと真希さんは死ぬまで愁斗を育てるハズだ。愁斗が血を分けた弟だから。

 確かに愁斗が早く就職すれば真希さんは自分のために使える時間が増えて、今よりも人生が充実するようになるかもしれない。それでも、そうなって欲しいから、愁斗に勉強を頑張って欲しいとは微塵も思っていないハズだ。それなのに、冷静さを失っているからってそんな風に言うのは絶対ダメだ。だってそんな風に言ったらまるで、本当は面倒を見たくないんだろと言っているようなものじゃないか。