死のうと思った日、子供を拾いました。

「あの、真希さんは愁斗の育て方が異常だとわかってなかったわけじゃないですよね?」
「もちろん。だだ私だけで愁斗を救うのは無理だと思ったので、父に監視カメラの粉砕や母の説得を頼もうとしていたのですが、父は愁斗が生まれて間もない頃から社員寮と家を行き来していて、半年に一回くらいしか家に帰ってきていなかったので、母の愁斗への扱いを伝えるのにかなり時間を使ってしまって……」

 なるほど。それなら愁斗が十二歳になるまで助けられなかったのも頷ける。

 ん?

「今は介護をしているから、社員寮と家の行き来はしていないんですよね? それなら、介護をする前はどうして行き来していたんですか?」

 顔を上げて俺を見ると、愁斗は眉間に皺を寄せて、「にぶ」と呟いた。

 もしかして、気に障ることを聞いてしまったのか?
 もしかすると、愁斗は同じことを二度説明するのが嫌いなのかもしれない。
 俺は愁斗から家庭環境の話を聞いた時のことをよく思い出して、あの時尋ねたことと同じことを聞いていないか考えてみた。

 あ。
 俺は同じことを聞いてはいないが、よく考えたら答えがわかりそうなことを聞いてしまっていたことに気づいた。
「愁斗に会いたくなかったから、帰っていなかったんですね」
「そ。だから俺は会いたいなんて思ってなかったけど、姉ちゃんは実の親に会えないのが辛かったし、寂しかったと思う。あの父親は今もそのことに気づいていない。あるいは気づいているけど、気づいていないフリをしている」
 後者だとしたら相当タチが悪いな。

「それって前者の可能性は……」
「限りなく低いと思います。まともな親ならきっとたとえ他人が家に住んでいようと、娘の様子を頻繁に確認しに行きますよ」
 確かにそうだよな。

「辛いことなのに話させてしまってすみません、真希さん」
 俺を見て、真希さんは口角を上げた。酷い話をする原因を作ったのは俺なのに、どうして笑ってくれるんだ。

「いいえ。大丈夫です、私には愁斗がいますから。愁斗さえ無事でいてくれれば、どんな扱いを受けても私は生きていけます」
 わがままだけれど素直な一面もある愁斗を立派に育てることで、真希さんは父親に会えない寂しさを埋めているのかもしれない。

「……素敵な姉弟愛ですね」
 人は誰かに愛されないと生きていけない。
 世界中には多種多様な考え方を持った人がいるから中にはそうじゃない人もいる。けれど、少なくとも俺が今まで親しくなった人はそういう人だった。

 その誰かが親だったり恋人だったりする人は何度も見たが、姉と弟でここまで愛し合っているのを見たのはこれが初めてだ。もしも俺に兄弟や姉妹がいたら、それらと行動をともにすることで、夏菜に会えない寂しさを埋めることができていたのか?

 できていたんだろうな、きっと。いいなあ。俺も兄弟や姉妹が欲しい。