死のうと思った日、子供を拾いました。


「なあ流希……愁斗はどうしてあんなに勉強ができないんだ?」
 俺が部屋のドアを閉めたところで、新太は口を開いた。

 やっぱりそこが気になるか。
 新太は中一なのに掛け算もできねえの?って聞くような奴じゃない。新太はすこしうるさいけれど、人を怒らせる言葉は滅多に口にしないような奴だ。そう知っていたからあえて何も伝えないでいたけど、これ以上知らせないままでいるのは流石に難しいか。

「はあ。もし今から言うことと同じことを愁斗から聞いたら、その時はちゃんと初めて聞いたフリをしろよ。でないときっと、愁斗が傷つく羽目になるから」

 そう前置きしてから、俺は新太に仁多花音の考え方が偏っていたせいで、愁斗がついこの前まで家に隔離されていた

「うわ……仁多ってそんな毒親だったのかよ。愁斗が生意気なガキになるのもわかるな」
 新太は口をへの字に曲げて、足元にあった小石を蹴った。

「ああ」

「なあ流希……お前、あの二人の家の事情にどこまで首を突っ込むつもりなんだ?」

 新太は急に、射抜くような視線を俺に向けた。

「え」

「真希さんはきっとお前をどこまで助けるか予め決めている。それと同じように、お前もどこまで首を突っ込むか決めておけよ。今は他人のことより、自分の心のケアを優先した方がよっぽどいいんだから」
 確かにそうだよな。でも……。

「どこまで助けるかを予め決めるってことは、その限度を超えたら助けるのをやめるってことだろ。……俺にはそんなことできない」
「できるだろ。お前はヒーロー気質の夏菜先輩と違って、父親が母親を支配しているのを見て見ぬ振りできるような奴なんだから」
 心臓を鷲掴みされたような気がした。足が鉛のように重い。

「誰かのために自分が不幸になる必要なんてない。生きていることすらも苦しいうちは、人を助けることなんてやめておけ。それが一番いい」

 まるで真希さんと愁斗といたら不幸になるって言われているみたいだ。

「不幸になる確信もないのに言うなよ」
「じゃあお前は、真希さんと愁斗と一緒にいて、自分が幸せになれると思うのか?」

「いや……」

 幸せになれるかなんてわかんねぇよ。それでも今は誰かといないと。独りでいたらきっと死んでしまうから。