死のうと思った日、子供を拾いました。


「流希さん?」
 ドアが開いたと思ったら、真希さんが駆け足で俺の隣に来た。

 心配して様子を見に来てくれたのか。

「真希さん……すみません」
「いえ、気にしないでください。私は大丈夫ですから。愁斗もとくに気にしてなさそうでしたし」

「愁斗?」

「弟です、私の」
 新太が目を見開いた。

「え、弟? 失礼ですがおいくつですか?」

「高校生です」 
「は、お前何女子高生家に連れ込んでんだよ!」
 声デカ。鼓膜破れる。
 つかまれた肩が痛い。
 こいつ、俺がさっき八つ当たりしたこともう忘れてないか?

「人聞きが悪い。そもそも今はそんなことするどころじゃないだろうが」
「あははは、だよなあ。ガリ勉のお前にかぎってそれはありえないよなー」
「別にガリ勉じゃない」

「入社三年で昇進しておいて流石にそれは嘘だろ!」
 夏菜が死んだ日にラインで昇進のこと言ったんだっけ。
 
「まだしてない。提案されただけだ。真希さん、新太です。……大学の同級生の」
「そこは嘘でも親友って言えよ!」
 だから声がデカい! 
 ただでさえ男の割に良く通る中性的な声をしてるんだから、少しはボリュームをおさえろよ。

「ふふ、仲良いんですね」
「もちろん!」
 あ、よかった。少し小さくなった。

「新太、近所に住んでいる真希さん。買い物付き合うって言ってくれたんだ」
 真希さんの瞳を覗き込んでから、新太は口を開いた。

「へー。それ、俺も行っていいですか?」
 新太が真希さんを見て尋ねた。
 俺に確認はしないのかよ。

「私は、新太さんが一緒でも全然大丈夫です」
「なら俺も行く!」

「え、お前仕事は?」
 今日は木曜だから新太は仕事があるハズだ。

「結婚式の日有給とってたのに出勤したから、その分今日は休んでいいって言われた」
 ああ、それで休みならちょうどいいと思って様子を見に来てくれたのか。
「そうなのか。わざわざ来てくれてありがとう」
「気にすんな。俺が来たくて来たから」
 新太が俺を見て口角を上げた。