死のうと思った日、子供を拾いました。


「自殺を止める気はなくても生きていて欲しいとは思うのか?」
 新太の矛盾している態度が可笑しくて、つい笑みが溢れた。

「そりゃあな。葬式までは持ちそうか?」
 新太は地面を眺めてから、首を傾げた。

「いやどうだろうな。それまでにしないといけないこともあるから、少なくとも後数日は生きていると思うけど」

「なんだよそれ」
「買い物。中止にしたお詫びしないとだろ」

「そんなのしなくていい。少なくとも俺らのサークルの分は絶対にいらない」

 俺はすぐに首を振った。

「いや用意するよ。まあ、一人一箱にはできないと思うけど」
 現役と卒業した奴らを合わせたらサークルのメンバーは百人近くいるから、流石に一人ずつに用意をするのは無理だ。

「なあ流希、どうしても死にたいならいいけど、迷ってるなら生きろよ」

「どうして」

「夏菜先輩を神が連れ去ったのは、きっとお前を傷つけるためだけじゃないから。決めたんだろ、夏菜に会った時に。――神を信じるって」

「そんなのとっくに忘れた」

 夏菜は絶望していた俺の前に、まるで神様が顕現したかのように突然現れて、俺の人生を百八十度変えてくれた。あの時から俺はずっと、夏菜と俺を出会わせてくれた神様に感謝して生きてきた。けれど今はもう、神様なんて信じる気にもならない。

「夏菜先輩がそれ聞いたら泣くぞ?」
「だろうな」
「……せめて葬式までは生きてろよ。最期の瞬間は、きっと夏菜先輩もお前と一緒に過ごしたいだろうから」

「一緒に過ごしてどうするんだよ。もう触れることはできても、触ってもらえることは二度とないのに」

「今だって触ってるかもしれないだろ」
 新太が俺の頬に手を置いた。

「見えないと意味ないだろ」
 俺は新太の手を振り解いた。

「それでも今でも夏菜先輩を幸せにしたいと思っているなら、隣にいてやれよ」

「っ、もう俺が何をしたって、夏菜を幸せになんかできないだろうが!!」

 頭に血が上って、つい思いのままに叫んでしまった。
 ああ、また余計なことをした。