いっそ部屋に監視カメラでもつけておけばよかったのか?
そんなことをしたら、夏菜のためらいのなさに惚れたのに自由を奪ってしまうことになると思ったから、ずっとしていなかった。けれど、居なくなるくらいならそうしておけばよかった。
「流希さん」
唇を噛んでいたら、真希さんが首を降った。
慌てて噛むのをやめたら、真希さんは俺を見てから自分の頬の前に手を置いた。
なんだ?
頰を触ったら、涙が流れていた。……またか。
真希さんが辺りを見回す。
何かを探しているのか?
カーテンのそばを見てから、真希さんはゆっくりと膝を動かして愁斗から離れた。
「真希さん? どうかしたんですか?」
「どうぞ」
カーテンのそばにあったティッシュBOXを俺に渡して、真希さんは微笑む。頭を撫でられた。
びっくりして、余計涙が出てきた。
「姉ちゃん、何してんの」
ベッドがあるところから愁斗の声がした。
愁斗は片方の目をこすりながら、俺と真希さんを見ていた。口をあんぐりと開けて、目を見開いている。
「え、何って……見てわからない?」
愁斗はベッドから降りるとすぐに真希さんの腕を掴んで、俺の頭から離れさせた。
「え、愁斗こそ何してるの?」
「こいつは年上! それに仕事の客でもないんだから、こんなことをする必要はないだろ‼」
愁斗が顔をりんごのように真っ赤にして、頰を膨らませる。
その言葉を聞いて、やっと愁斗の気持ちがわかった。
俺にやきもちを焼いているのか。
真希さんはまるで花が咲いたかのように嬉しそうに笑ってから愁斗に抱きついて、頭を撫でた。
「わっ、姉ちゃん」
愁斗は声を上げて、肩をびくっと震わせた。
……そういえば俺も、こんな風に夏菜に頭を撫でられたことがあったな。
二人の微笑ましい姿を見ていると、少しだけ辛い気持ちがなくなった。
「愁斗、朝ごはん食べるだろ。何がいい?」
俺は鼻をかんでから、愁斗に近づいた。
「え、作ってくれんの?」
「ああ。米は真希さんが炊いたのだし、味噌汁はインスタントになるけど、それでよければ」
「全然いい。……チーズが入った、卵焼き食べたい」
愁斗は明後日の方向を向いて言葉を紡いだ。
「ふ。わかった」
ずっと捻くれた態度をとられていたから、素直にリクエストを言われるとつい笑みが溢れた。
「何笑ってんだよ!!」
愁斗が俺を睨みつける。
「何でもないよ」
愁斗ともう一度目を合わせてから、俺はキッチンに行った。



