死のうと思った日、子供を拾いました。


 夏菜の部屋に行ったら、愁斗が真希さんの膝の上で規則正しい寝息を立てて眠っていた。

「真希さん?」
「掴まれちゃって」
「んん、姉ちゃん」
 愁斗は真希さんの服を力を込めて握っていた。真希さんの服に皺ができている。まるで離れたくないとでも言っているみたいだ。
 幼くてまだあどけなさが残る顔は、目を閉じていれば一切生意気そうには見えなかった。

「黙ってれば可愛いんですけどね」
 愁斗の頭を撫でながら、真希さんは口角を上げた。
「はは、そうですね」
 俺はクローゼットを開けると、そこにあったハンガーラックにあかすりと洗顔ネットをかけた。

「夏菜さん、黄色が好きだったんですか?」
 ハンガーラックの端の方にかかっているウエディングドレスを見て、真希さんは首を傾げた。

「……いえ、俺が店員さんに言ってこの色にしてもらったんです。太陽のように人を惹きつける魅力がある夏菜にはこれがピッタリだと思いましたし、結婚式には夏菜に救われた子が何人も来ることになっていましたから」

 ウエディングドレスを触りながら呟く。
 これはお店にあった試着用のドレスを元に、夏菜と俺と店員さんの三人で相談して作ったものだ。

 元のドレスと違うところは非対称にタッキングしたオーバースカートの上にある向日葵色の四段のフリルだけだ。オーバースカートのところどころに小花柄の刺繍があって、腰に膝に届きそうなくらい長いリボンがあるところやリボンに花の刺繍が施されているところは元のと変わらない。

「向日葵の学名は、太陽の花ですもんね」
「はい。初めてこのデザインを提案した時は『私はそんなすごい子じゃないよ』って言われて。それでもずっと、夏菜は俺にとって太陽そのものだったから……」
『今はずっと、心の中に雨が降っているように感じる』とは流石に口に出せなかった。

「素敵な方だったんですね」
 真希さんの言葉を噛み締めるように、ゆっくりと頷く。

 夏菜は明朗快活で、困っている人なら誰でも助けてしまうような子で、人のためなら自分の命すらもかけることができてしまう。そんな夏菜は母親を中々助けることができなかった俺には酷く魅力的に見えた。そして、そんな危うさを秘めている子だからこそ放っておけなくて、守りたいと思った。けれど俺は、結局夏菜を守ることができなかった。

 仕事をしていたから仕方がないなんて言えない。誰かが死んでもすぐに切り替えられるほど強くないから、そばにいて欲しいと思ったのに……。