カーテンを開けたら、朝日が見えた。
夏菜がいなくても時は過ぎる。
今日はあの火災事件が起きてから三日目の朝だ。葬式まではあと六日間ある。
あの後、俺は真希さんと愁斗と一緒にマンションの部屋に戻って、二人にダイニングとキッチンの片付けを手伝ってもらった。
二人は机の下にあるクッキーの入った箱を目にすると、あからさまに顔を顰めた。けれど愁斗は、クッキーが一つずつ小分けされているのがわかると、すぐに袋を開けてそれを食べた。その光景を見て俺はぎょっとして、慌てて食べるのをやめさせようとしたのだけれど、愁斗はそれに構わず、クッキーを食べ続けた。そんな愁斗を真希さんは愛おしそうに眺めていた。
片付けが終わったら三人でご飯を食べてそれぞれ風呂に入ってから、真希さんと愁斗には夏菜の部屋で寝てもらった。俺は自分の部屋で寝た。
自分の部屋を出てダイニングに行くと、キッチンに真希さんがいた。真希さんはガスコンロの上にある鍋をおたまで混ぜていた。
真希さんが振り向く。
「あ、流希さん」
『おはよー、流希!!』
真希さんを見て、ついキッチンで朝食の用意をしている夏菜の姿が頭によぎった。ああ、まただ。君はいつだって、俺の心を掴んで離さない。
「お、おはようございます。ベッド、寝心地悪くなかったですか」
頭を振ってから、俺は作り笑いをした。
「いえ、大丈夫でした。夏菜さんでしたっけ? 彼女、花が好きなんですね」
「ああ、はい。亡くなった時も花柄の服を着てました」
夏菜は寝る時はいつも、薔薇の香りのするスプレーを枕にかけてから眠っていた。そのため、スプレーは今でも枕元にある。真希さんはたぶん、そのことや花柄のカーテンのことを思い出しながら言っているのだろう。
「そうですか。ガーデニングもやっていたんですか?」
「いえ、そういうのはしたことがなかったです。マンションのベランダじゃ、大してできないですから。だから子供ができたら、一軒家に引っ越そうって言ってたんですけど……」
「流希さん、あの夏菜さんって、妊娠は……」
首を振る。
「していないです。結婚式をしてから作ろうって話をしていたので」
子供も一緒に燃えるなんて洒落にならな過ぎるから、そう話をしていて良かったよな。
でも子供がすでに生まれていたら、俺は家事に追われていてこんなに病むこともなかったのか? いやたとえ子供がいても、子供が寝ている時とか、ふとした瞬間に泣いていただろうな。そんな自分の姿がありありと想像できてしまう。