死のうと思った日、子供を拾いました。


「姉ちゃんがいたから」

「え?」
 どういう意味だ?

「俺の人生で意味があるのは、姉ちゃんと話したりご飯を一緒に食べたりしている時間だけだ。それ以外の時間は本当になくていい。世界がなくなっても、俺と姉ちゃんだけが生きていたらいいと本気で思う」

 あまりに規模がでかい話だったけれど、とても気持ちがわかる気がした。俺も夏菜さえ生きていれば、何もいらないと思うから。

「でもそんなふうになることはないし、現実は辛くて、犯罪者が長く生き残ったり、姉ちゃんみたいな人が急に倒れたりする。俺と姉ちゃんは五つ年が離れてる。でもそんなの関係なく神は病気や事故で俺より先に姉ちゃんを殺すかもしれない。だったら俺は姉ちゃんが生きているうちに、もしくは姉ちゃんと一緒に死にたい。姉ちゃんがいないとただでさえ楽しくない人生がさらにつまらなくなるし、生きる意味もなくなるから」

「……一緒にいられるうちはずっと二人で笑って生きていたいとは思わないのか」

 夏菜がいない現実は辛いし悲しいし、楽しいことなんて一つもない。けれど、俺はそんな現実になるのが怖いからって、夏菜より先に死のうとは思えなかった。夏菜の笑顔を明日も見たいと、明日も夏菜の笑顔が見れると疑いもせずに思っていたから。

「姉ちゃんがいるだけでずっと笑うことができていたら、そう思うのかもな」

「え」

「俺はあんたと違って学校を楽しいと思ったことなんてない。姉ちゃんは真面目で、通信制だからテストで良い点だけとれば大丈夫なのに、毎日勉強するしバイトにだって毎日行く。そのせいで俺は姉ちゃんといる時間より姉ちゃんといない時間の方がかなりに長い。それなのに笑って生きられるわけないじゃん」

 そうか。

 俺は学生の時は夏菜といる時間を少しでも多く取るためにテストで赤点をとって補習になったり、単位を落としたりしないようにしていた。社会人になってからも夏菜との時間をより多く取るためにできるだけ仕事を早く終わらせて、残業をしないようにしていた。でも中学生の愁斗はテストで点数が悪くても補習になんてならないから、どんなに愁斗が頑張っても、真希さんが愁斗との時間を増やそうとしない限り、一緒にいる時間が増えることはないのか。

「姉ちゃんは優しいからテストで点がよかったら、一日くらい勉強やバイトをサボって遊んでくれるかもしれない。それでも小一からやらないとだからどんなに勉強してもついていけない。でも、だからってもっと遊んでなんて俺のために頑張っている姉ちゃんに言えないから、生きていたら俺の人生はほとんどクソ。それなのに姉ちゃんが死んだら本当に地獄」