死のうと思った日、子供を拾いました。

「まだ死なねぇの?」
 俺の隣に座って、愁斗は首を傾げた。

「え」
「昨日俺に怒ってた割に、今日も生きてるんだなぁと思って」
 歯を出して、俺が死んでいないのがとても面白いような様子で、愁斗は笑う。

 無神経にもほどがある。

「し、死んだら夏菜が悲しむから」
「ハッ。いくらでも悲しませればいいじゃん。死んだら会えるわけでもねぇんだから」
 昨日俺が思っていたことと同じような言葉だ。

「好きな人を悲しませることが簡単にできたら、苦労しない」

 結局そこなのだ。
 どんなに死にたいと夏菜に会いに行きたいと思っても、本当に行ったら悲しむとか怒るとかばかり考えて、死のうか迷ってしまう。

「ふーん。恋ってめんどくさいな」
 面倒臭いか。確かにそうなのかもしれない。もしも夏菜が好きじゃなかったら、ためらいなく死ぬことできるから。

 ……ためらいなく死ぬ?
 夏菜がいる世界は俺にとって楽園そのもので、俺は夏菜といる時は一度も死にたいと思わなかった。でも愁斗は、真希さんがいるのにためらわずに死のうとした。その違いって、一体なんだ。


「なあ、一つだけ聞いてもいいか」
「何」
「愁斗はどうして、真希さんがいるのに死ぬのをためらわなかったんだ」

 死んだら大切な人に、もう二度と会えなくなる。たとえ小学校に通ったことがなくても、それくらい知っているハズだ。それなのにどうして。俺はずっと死ねなかった。夏菜の隣にいることが、夏菜が俺の隣で笑ってくれることが生きる意味だと思っていたから。