死のうと思った日、子供を拾いました。


 お腹が鳴った。昨日夜ご飯食べてないもんな。俺はベランダを後にすると、自分の部屋に行って机の上にあった紺色の鞄を手に取った。

 玄関にあった姿見を見て、俺は今更自分がスーツ姿なことに気がついた。会社を去ってから着替えていなかったからか。俺は自分の部屋に行くとジャケットとワイシャツを脱いで、ティシャツを着た。
 マンションを出ると、俺は三分ほど歩いて近場のパン屋に行った。

 パン屋にはクロワッサンやメロンパンなどの定番のものがたくさん売られていた。カレーでいいか。俺はカレーパンだけをとってレジに行った。

「あ、お久しぶりです!」
 レジにいた店員が俺に話しかけてくる。
「ああ」
「奥さんはお家ですか?」
 トレーを俺から受け取ってから、店員は首を傾げた。たぶん、夏菜が生きていた時によく店に二人で来ていたから聞かれた。

「ああ、家だよ」
 笑うことなんてできないとわかっていたのに無理に作り笑いをして、俺は言った。本当にそうだったら、どんなによかったのだろう。
「ありがとう」
 会計をしてパンを受け取ると、俺はすぐに店を出た。
 家に帰ったら泣いてしまうような気がしたので、俺は行くあてもなく歩いた。
「あ」
 愁斗?
 見覚えのある姿を見つけて、俺は公園で足を止めた。

「げっ!」
 ブランコにまたがっている愁斗は、俺と目が合うとあからさまに顔を顰めた。
 げって。どれだけ俺に会いたくなかったんだ。

 愁斗の膝の上には子猫がいた。猫好きだったのか。
 猫の世話をしていた夏菜の姿が頭に浮かんだ。涙腺が緩んで、涙が溢れ出してくる。

「また泣いてるし」
 愁斗が立ち上がろうとすると、猫は走って公園を出て行った。愁斗は猫に手を振ってから俺に近づいて、ポケットからハンカチを取り出し、俺の涙を拭った。

「なんで」
「姉ちゃん昨日笑ってたから。その礼」

「ありがとう」
 礼を言ってから、俺はハンカチを使って涙を拭った。ハンカチをポケットにしまってから、俺は公園のベンチに腰を下ろしてカレーパンを食べた。