死のうと思った日、子供を拾いました。


 めちゃくちゃ腰が痛い。なんでこんなに痛いんだ。あ、座ったまま寝ていたのか。歯磨きもしないで。せっかく沸かしたのに、風呂にも入らなかったんだな。

「はあ」
 もしここに夏菜がいたら、『ちゃんと入らなきゃダメだよ』って俺を叱ってくれていたのか?
 そうなんだろうな、たぶん。

 俺は立ち上がると、服とタオルを用意してシャワーをした。ゆっくりとした動作で服を着てドライヤーをする。
 タキシードとウエディングドレスの返品をしないと。買ってからまだ一週間も経っていないし試着もしていないからできるハズだから。

 深呼吸をしてから夏菜の部屋に行ってクローゼットのドアを開けた。

「うっ」
 レース柄のウエディングドレスとベールを見た瞬間に、吐き気が押し寄せてきた。

 慌てて部屋の窓を開けて、ベランダに駆け込む。
 息を吐いていたら身体が少しずつ楽になって吐き気が治った。

 返品はもう諦めたほうが良いだろうな。そもそも夏菜の赤スリも捨てられないのにできるわけがないか。

「はあ」

 もう戻ってこない子を好きなままでいることは本当に良くないことだ。好きなままだから、俺は未だに結婚指輪を捨てる気にもタキシードとウエディングドレスを返品する気にもなれない。誰かに捨てることを頼めたらいいのに。……母親に頼んでみるか。でも二人で時間をかけて選んだものの処分を母親に任せるなんてダメだよな。そんなことしたら夏菜はきっと悲しむに違いない。もういっそ、悲しませればいいんじゃないか。天国にいる夏菜が泣いている姿を俺が見ることなんてないんだから。

 いや、ダメだ。そんなことできるわけがない。
 ハッ。暴力を見て見ぬ振りすることはできるのにそれはできないのかよ。めんどくさい性格だな、本当。