死のうと思った日、子供を拾いました。


 子供みたいってなんだ。恋人を亡くしたんだぞ? それなのに子供みたいなことを言うなって、無理にも程があるだろ!!

 スマフォを壁に叩き付ける。ガラスのフィルムが、音を立てて割れた。

「はあっ、はぁっ!!」

 フィルムも画面も、バッキバキになるまで、壁に勢いよく叩きつける。

 割れた破片が手を掠めたみたいで、人差し指から血が溢れ出していた。

 少し指が傷んだが、痛みなんてどうでもよかった。このドス黒い気持ちがなくなるなら、そのためにどれだけ自分が傷ついたって構わない。

 ぐー。

 無遠慮にお腹が音を立てる。……こんなに絶望してても、お腹はすくんだな。

 テーブルにあった箱が目に付いた。

 夏菜は死んだ。それなのに、詫びの品はメッセージカードとこの箱だけで。なんだそれ。こっちは恋人を失っているんだぞ。それなのにたかが食べ物で礼をするつもりなのか? ふざけているのか?

 無性に怒りが湧いて、メッセージカードをビリビリに引き裂いた。それでもまだ怒りは収まらなくて、俺は夏菜の部屋の机の上にあったハサミを手に取ると、箱に、それを勢いよくぶっ刺した。

 どんなに刺しても心がスッキリしなくて、むしろ余計に怒りが増した。ハサミをテーブルの上に丁寧に置いて、箱を床に投げて、足で思いっきり踏んづける。

 中身を包んでいたラッピング用紙ごと、箱がぐにゃっと音を立てて変形する。

 力を込めすぎて、足が真っ赤になった。酒によって顔が火照る時と似たような色だ。

 え、猫?

 ボロボロになった箱の中には、何の変哲もない、ただの猫型のクッキーがあった。

 予想外のことに呆気に取られて、思わず箱から足をどける。

 結婚式の前日に婚約者を亡くした人に渡すものにしては、やけに在り来りだな。てっきりもっと高級そうで、珍しいものかと思っていたんだが。

 ……あ、そうか。颯が選んだのか。