ガーベラと薔薇か。……この花、夏菜が大事にしてたやつだな。花瓶割ったの知ったら、夏菜怒るかな。
―― 夏菜に叱られたい。
『もう!流希何してんの!』って、呆れた顔で言われたい。
でも、もう無理なんだよな。
「はぁ……」
靴箱の隣にあった掃除用具入れからホウキとチリトリを取り出して、花瓶の欠片と花を片付けた。
花びらが数枚しか落ちてないから新しい花瓶に入れて水をやればすぐに元気になりそうだな。
いや、こんなに心がボロボロじゃそうしてもすぐに枯れるか。
玄関をぬけてリビングに行って、ちりとりの中にある花瓶と花を燃えるゴミ用のゴミ箱に捨てた。
分別をする気にもならない。
「夜ご飯どうしよう」
もう夜の七時なのに、全然食欲が湧かないな。
ピンポーン。
部屋のインターホンが鳴った。
ドアを開けると、そこにいたのは隣の部屋のご夫婦とその子供だった。
「流希さん、このたびは本当にすみませんでした!! 颯を助けてくれて、ありがとうございます!!」
そう言うと、夫は九十度くらいの深いお辞儀をした。
「……助けたのは俺じゃなくて、夏菜です。俺は何もしていません」
「それでもお礼がいいたかったんです。本当にありがとうございました!」
そう言って、婦人も夫と同じように九十度くらいのお辞儀をする。
――謝るくらいなら、夏菜を返してくれ。
やめろ。 そんなふうに思ったってしょうがないだろ。もう夏菜は帰ってこないんだから。
「お兄ちゃん、ありがとう!!」
颯が俺の足に抱きついた。
は?
ふざけんな。何がありがとうだよ。
もうあいつは帰ってこないんだよ、あんたがガスコンロの火をつけっぱなしにしたせいで。
もう二度と声を聞けない。もう二度と面と向かって『愛してる』って言えない。もう二度と手を繋げない。もう二度と抱きしめられない。もう二度と唇を合わせられない。昨日までは、全部できていたのに!
「夏菜を返せよ! なぁ!! あんたのせいで死んだんだよ!!」
気がついたら颯の頬を叩いていた。
「うっ、うわあああああんっ!!」
颯が大粒の涙を流して、俺から離れた。
やってしまった。
「……すみません、失礼します」
冷静じゃなかった。頭を冷やそう。
「あの、つかぬ事を伺いますが、大丈夫ですか?」
婦人が俺に近づいてきて、顔色を伺ってくる。
「……大丈夫です」
逃げるように部屋に戻ってドアを閉めた。



