「死んだくらいって、俺は……っ!」
「分かってますよ、流希さんが辛いのは。見れば分かります。それでもあの子は、自分の方が不幸だと思った。自分の方が環境が悪いと思った。自分よりよっぽどいい環境にいるくせに、死のうとした流希さんに、すごく腹が立ったんだと思います。あの子はもしかしたら、嫉妬したのかもしれません。躊躇なく死ねるくらい、自由な環境にいる貴方に。それで、貴方の目論見を壊したくなったのかもしれません。ま、全て私の憶測ですけど」
そう言って真希さんは口角を上げて、怪しい笑みを浮かべた。それはまるで悪魔の微笑みのように闇が深く、美しい笑みだった。どこまでも深そうなその淡い瞳に、吸い込まれそうだ。
「大学生だったんですね」
麦茶を一口飲んでから、俺は言う。
高校生にしては、敬語がやたら上手に使えている。ただでさえ弟と二人暮らしで、敬語なんて学校でしか使わなそうなのに、随分使い慣れている感じがした。
「アハハハ! 高校生ですよ? ただ、私本当は言っちゃいけないんですけど、年齢詐称して夜の仕事で働いてるので。大人びてると思って下さったのなら、そのおかげだと思います。あの子が学校休みがちなのも、夜の仕事と学校を行き来してる私の身を案じてなんです。もちろん授業についていけないからとかもあると思いますけど、一番はそれが理由なんです。いつも私の代わりに進んで家事してくれるんです。通信制の高校通ってるので、そんな凄い疲れるわけでもないんですけどね。あの子、心配性なんです」
ん?
「でも、通信制の高校って学費都立より高いですよね?」
洗濯機を買わず服を手洗いするくらい節約にうるさいのに、なんでそこは通信制なんだ?
「……はい、もちろん。私、半年くらい前まで都立通ってたんです。でも、もともとそんな体力ある方じゃなかったので、ある日疲労で倒れちゃって。それで、高いけど、自分の身体のために、通信制の学校に通うことにしたんですけど、あの子私が倒れたこと随分気にしてるみたいで、よく私が心配だからって帰ってきちゃうんです」
そういって、真希さんは呆れたように目尻を下げて笑う。



