「……愁斗は大人も同級生の子達もみんな信じてないんです。信じられるのは家出した自分を探して二人で暮らそうって言った私だけだと思ってます。だから、わざと態度悪く振る舞って、壁を作ってるんです。本当はすごくいい子なんですよ?」
嘘ではない気がした。
きっと本当に根はいい子なのだろう。環境のせいで歪んでしまっただけで。
「どうぞ」
真希さんが冷蔵庫から麦茶が入ったピッチャーを取り出し、コップに麦茶を注いでちゃぶ台の上に置いた。
「……ありがとうございます。本当に、随分苦労したんですね」
「そりゃあもう。私も愁斗も、少ないお金を切りつめて、死に物狂いでここまで生きてきたんです。だから、愁斗頭にきたんじゃないかなぁ。流希さんが死のうとしたのを見て」
「えっ」
思わず戸惑った声を出す。
まさかそんな答えが返ってくるなんて。正直、かなり予想外だ。
「……多分愁斗は、自分がこの世で一番不幸な人間だと思ってるんです。だから、自分より不幸じゃない人間が自殺するのは、許せないんですよ」
「……よく、わかりません」
「……わからくていいですよ。私も愁斗が考えてることをほとんど理解している訳じゃないので。これも所詮、私の憶測に過ぎませんしね」
口角を上げて笑って、真希さんは言う。
「ただいえるのは、愁斗はすっごく素直な子なんです。だから、助ける気がなかったのなら、きっと流希さんに怒ったんだと思います。婚約者が死んだくらいで死のうとした流希さんをみて、すごく腹が立ったんだと思います」



