スッポンのスープで身体を温めてから。

 次に出された角煮は、田城(たしろ)の食欲を掻き立てるものだったらしい。

 目の前に出されてから、写真を撮った後に勢いよくひと口で食べ始めた。


「ほろっほろ!? え、柔らか!? 溶けた!!」
「ふふ。昼間に仕込みましたしね?」
「美味し!! 美兎(みう)っちの彼氏さんの料理マジ美味!? あ、えーと?」
火坑(かきょう)と言います。呼びにくいようでしたら、店長でも大将でも」
「おお! 大将とかかっこいい!」
「ふふ」


 酒は沓木(くつき)も含めて、美兎オススメの自家製梅酒のお湯割り。田城もだが、沓木も気に入ったらしく、ごくごくと飲んでいた。

 しかし、相変わらず角煮は絶品だ。

 蕩けそうなくらい柔らかいのに、口に入れたらふわふわであっという間に溶けてしまうのだ。なのに、脂身とは別の肉の部分はちゃんと歯応えがあって。

 練り辛子をちょこっとつけると、鼻を通り抜けていく刺激がなんとも言い難い恍惚感が訪れる。

 思わず、ぱくぱくと食べてしまえるほどだ。


「う〜ん! 今日も美味しい! これとあと猪のカレーって、ちょっと想像つかないけど」
「そうですね? 角煮と比べて脂身はほとんどありませんが。時短で煮込んで柔らかくなった肉が特徴です」
「猫坊主、僕にももう一杯」
「もうダメですよ? 美兎さん達の分で米もギリギリですから」
「時短ですればいいじゃないか?」
「ダメです」
「ちぇ」


 珍しく、ぬらりひょんの間半(まなか)は少し酔っているらしい。いつもなら素面の顔も少し赤かった。


「結構飲まれたんですか?」
「ふふふ。君達のように、妖と人間で結ばれたように。僕の孫も同じでね? そのひ孫が可愛くて可愛くて。ついつい飲んじゃったよ」
「あら、おじ様は結構なお年なんですか?」
「うん。大化の改新から生きてるよー?」
「たいか? かいしん??」
「田城ちゃん、ちゃんと大卒?」
「歴史専攻じゃなくて、美術系でしたもん!」
真衣(まい)ちゃん、単純に忘れてるだけでしょ?」
「てへー?」


 ああ、こう言う飲み会を楽庵(らくあん)で出来るとは思わないでいた。

 美作(みまさか)もいたが、やはり会社が違うので会うのもまちまち。

 だから、同じ会社の人達と集うことが出来るだなんて思わなくて。

 ついつい、酒が進んでしまうものだった。


「さ。お待たせ致しました。猪肉のカレーです」


 そして、ついにお出ましになった、猪肉のカレー。

 焼いた肉がゴロゴロ入っているのが特徴的な、とても美味しそうなカレーだった。


「おお!」
「あら」
「美味しそう!」


 米も艶々していて、スプーンを装備したら。

 いざ、とすくうのだった。


「ん!?」
「ん!」
「んん!!?」


 そしてその味は。

 豚肉に似た力強い歯応えの、蕩けるような味わいのカレーであった。