【短編】ベイビー・ホワイト




「待って、りっちゃん」

「待たない」

「なんでいたの、」

「何でもいいだろ」

「ねえ、」




泣きそうな声で、早足で歩く俺に引きずられるように必死についてくる。昔は逆だったよな。



もう相手の男が追いかけてこないであろう公園までついて、ベンチにどかっと座る。



「…りっちゃん、ありがとう」

「別に」

「……ばかだって、思ったよね。恋愛経験ないから、デートに誘われてすぐ舞い上がって、押し倒されて……でもあんな人だって、知らなくて」



アイツに掴まれたらしい左腕に、赤い跡がついている。それを見ただけで頭がカッとする。

傷付いて、泣けばいいって思ったのに、実際に叶ってしまったら怒りが沸くだけだった。



俺の綺麗な白を、汚すんじゃねえ。



少し震えながら、ちらりと俺を見上げる潤んだ瞳。りっちゃん、と呼ぶ、綺麗な声。



もう、いいよ。
──ずっと俺の負けでいいよ。



「もうやめるわ」

「え?」

「我慢すんのやめる」


なにを?なんてキョトンとする顔が、むかつく。可愛いから、むかつく。