「ねーえ、聞いてる?」
いつの間にか隣に座っていた女が、上目遣いに俺を見上げる。
どう考えたってこういう従順そうな女の方が可愛い。くるんと巻かれた睫毛も、黒いタイトなミニスカートも、ちらつくうなじも。俺のこと見ない彼女より、ずっと。
「あー、ごめん。聞いてなかった」
「あはは、ひどーい。律希くんっていうんでしょ?りっちゃんって呼んでもいーい?」
「……だめ」
「え?」
「それはだめ」
驚いてきょとんとする女に、友達が助け舟を出す。
「ごめんごめん、そいつ何でかわからないけどその呼び方だけは嫌がるんだよねー。
うちの学校でも誰も呼ばせてくれないの、おかしいでしょ?」
「なにそれ、なんでー?」
「別に。その呼び方が嫌いなだけ」
ああもう、うぜえ。いつまでも視界にちらつく白も、アイツの「りっちゃん」って呼ぶ声も、俺に微塵も興味なさそうな目も、デートに浮かれる顔も。
早く頭から消えろよって、もう何度思ったんだっけ。



