以前叔父さんから聞いたことがある。


自分の汚れに敏感な人間は、コントロールすることができる時があると。


知識としては知っていたけれど、実際に目の当たりにするのは初めてだった。


あたしはまたゴクリと生唾を飲み込んだ。


黒いモヤに包まれている平山先生はあたしとアユカに近づくと、すぐに歩み寄ってきた。


「どうしたの君たち? 入部希望かな?」


平山先生の声はとても爽やかで、隣のアユカが頬を赤らめるのがわかった。


しかし、あたしは全身に鳥肌が立っていた。


この優しい声も、浮かべている笑顔もすべてが偽物だ。


みんなこの男に騙されているのだ。


「いえ、そうじゃないんですけど、実はちょっと聞きたいことがあって来たんです」


アユカがいつもよりイチオクターブ高い声で言う。


「アユカ。もう話はないよ」


あたしは早口でそう言っていた。


一刻も早くここから遠ざかりたかった。