「はい、お気遣いありがとうございます」

  エイミはそう言って、彼に微笑み返した。……つもりだったのだが、なんだか上手に笑えなかった。

「おやすみ」

 ジークに見送られながら、エイミは部屋を後にする。

 ジークの部屋を出てすぐ、アルやリーズと遭遇した。
 どう考えても不自然な遭遇であるし、みんな挙動不審なのだが、エイミは全く気がつかない。というより、周りを気にするような心の余裕がなかった。

「おや、烏ちゃん。どうしたのさ?」
「そうね、ジーク様は一緒じゃないの?」

  エイミはまた、ぎこちない笑顔を作った。

「えっと、部屋に戻っていいと言われたので、戻りますね。それじゃ、おやすみなさい」

 エイミはみんなと目を合わさずに、早口で言うと、そそくさと逃げるように自分の部屋へと向かった。

  これ以上話しかけられるのが、ひどく億劫だった。

 なぜみんなにそんな態度を取ってしまったのか、自分でもよくわからない。

 ジークは疲れただろうと、エイミを気遣ってくれたのだ。感謝し、喜ぶべきところなのに。

 なぜ、心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになるのだろう。

  ひとりきりの部屋に、ゾフィー婆や特製の甘ったるい香油の香りが充満している。

(せっかく塗ってもらったのになぁ)

 寂しいような、虚しいような、よくわからない気分だった。

 この不可解な感情に振り回されたせいで、エイミは一睡もできぬままに朝を迎えた。