「あの髪は気にならないんですかね?」
「あの黒髪がエイミの魅力だ。俺は、珍しいものが好きだ」

 まるで珍種の蝶を発見した少年のように、ジークは目を輝かせている。

(結婚って……こんなノリでいけるのか? まぁ、もうどうでもいいか)

 アルはすっかり呆れてしまった。ここで、恋愛のなんたるかをジークに語って聞かせたところで、なんの意味もないだろう。アルは時間の無駄がなにより嫌いなのだ。

「じゃあ、まぁ、頑張ってクダサイ」
「うむ。ありがとう、アル」

 アルに認められたと思ったのか、ジークは満面の笑みだ。

 ふぅとため息をつきつつ、アルは執務室を出た。すると、どこからともなくリーズがあらわれアルに声をかけた。

「寂しい? ジーク様の結婚」
「僕が? まさか!」

 アルは笑い飛ばした。

「あんなおままごとみたいな結婚で、大丈夫かと心配してやってるのさ」
「本当に素直じゃないんだから、アルは。私はあのふたりお似合いだと思うけどな。きっと良い夫婦になるわ」
「……だといいけどね」

 ちらりと執務室を振り返って、アルは言う。

 リーズはぶらさがるようにして、アルの腕にしがみついた。

「大丈夫よ。いざとなったら、私がアルのお嫁さんになってあげるから!」
「僕は死ぬほど理想が高いんだ」
「全然問題ないわ。私、あと数年したら完璧な淑女になる予定だから。まぁ、顔だけはアンジェラにちょっと及ばないかも知れないけど~」

 アルは思った。リーズが完璧な淑女になれるかどうかは不明だが、彼女の観察眼の鋭さは疑う余地もない。

 リーズがそう言うのなら、あのふたりは良い夫婦になるかも知れない。