「うっ……ぐす……うぅ……」
「あのですね、ジーク様。神父役がそんなんじゃ、式が全然進まないんですけど」

 腕を組んで登場した新郎新婦を見た途端に号泣してしまったジークをアルがなだめている。リーズもハンカチを貸したが、ぼろぼろ流れるジークの大粒の涙は止まる気配もない。

 リーズは隣に立つアルをちらりと横目で見た。黒いタキシードに身を包んだ彼は本当に素敵で、胸がきゅんと高鳴る。

(初恋は実らないっていうけど……実っちゃったなぁ、私は)

 これまで彼と過ごした日々を思い返しながら、リーズは圧倒的な幸福感に酔いしれた。

「アル」
「なに?」
「ありがとう。サプライズ結婚式、すっごく嬉しい。あの日、助けてくれたのがアルでよかった」
「うん」

 リーズが言うと、アルは彼らしくもない柔らかで優しい笑みを浮かべた。

「でもね、アル。いっこだけ言わせて!」
「なんだ?」
「こんなに素敵な結婚式を企画してくれてたなら、やっぱり初夜は取っておけばよかったわ~」

 今夜が初めてだったなら、さぞかし美しい思い出になっただろうに。リーズはせっかちな自分の性分を心底悔やんだ。
 アルは呆れきった顔でリーズを見返す。

「なんだ、そりゃ。あの日も初夜。今夜も初夜ってことにすればいいだろうが」
「そ、それはなんか違う~」
「そもそも、あの日けしかけたのはお前のほうだろ」
「わぁ~みんなの前でそういうこと言わないでよー」

 ジークの泣き声とリーズの叫び声がノービルド城の中庭にこだました。