入学までの一週間。
 思ったよりも平和だった。

「へえ、君は料理もできるのか!」
「え、ええ。嗜む程度ですが」


 …………この男以外は。


「あの、エルスティー様? 毎日毎日来られて暇なのですか? 本日は午後から入学前のお茶会ですよね? 準備などでお忙しいかと思うのですが……」
「ノンノン、そんな野暮ったい事は言いっこなしだよセイドリック。明日もパーティーをやるのに、お茶会など無意味じゃないか。それに、お茶会はこの国に縁のない国の王族貴族がザグレの者と接点を持つ為に行われる。君はすでに僕と仲良くなったんだからいらないじゃない」
「っ……」

 ああ、頰がつりそう。
 つってないかしら?
 ……このいかにも軽薄そうな男の名をエルスティー・ランドルフ様。
 ザグレ王国公爵家のご子息。
 この国には公爵家が三家あり、彼の家はその一角。
 そして彼曰く、王太子メルヴィン様は彼の幼馴染で親友。
 自分以上に彼を知る者はいないし、自分以上に彼から信頼されている者はいない……らしい。
 ものすごい自信よね。
 王家の者がそこまで信用を置くなんて、正直私には全く理解できない。
 彼にそこまで信じられているというその自負も、この軽薄そうな男をそこまで信用しているという王太子様も。
 いや、まあ、彼の戯言である可能性もあるけれど。

「それは確かにそうですが……私としては、この国を含め、他国の方々と交流を持っておきたいのです。ねえ? 姉様?」
「え? そ、そう、です、わね?」
「ふむ……ロンディニア王国は他国と交流しなくても十分やっていけるんじゃあないの?」
「そんな事はございません。いえ、むしろそんな国はありえません。同じ大陸に住まう者同士、助け合っていかねば」
「そうかなぁ?」
「…………」

 どういう神経していのかしら、この方……。
 王族なら一部、そういう傲慢な考え方をする者もいる(主に我が国の長女とか次女とか)。
 でも、交流を重ね、王族同士の婚姻で血を深め合い、戦争を起こさない。
 それが一番、民の為になるはず。
 我が国は、それは、まあ、自慢して輸出できるようなものなどないけれど……少なくとも海のない国ーー主に隣国シャゴインねーーには、魚を塩漬けにしたものを出荷したりはしている。
 そしてシャゴインはミゴ繭の生育が盛ん。
 エルスティー様、あなたが今着ていらっしゃる服の刺繍に使われているのは、シャゴインの特産品ですのよ。
 それを分かった上で言っているのかしら?
 それともこの方も、我が異母姉たちのように他国と交流せずともやっていける、と本気でお思いなのかしら?

「時に、セイドリックは腕に覚えはあるのだよね?」
「え? ええと、嗜む程度ですので、覚えがあると言い切れるほどのものでは……」

 いきなり振られた会話に驚く。
 困ったわ、この人本当になにを考えているのか全然分からない。
 この国の公爵家と繋がりが持てるのは、確かにありがたい事ではあるのだけれど……。
 いえ、そもそも殿方同士の会話って、こんな感じでいいのかしら?
 そしてこの方、さっきから隣国の姫であるセシル(に扮するセイドリック)に一切話しかけないわね?
 これ、なかなかに失礼なのでは。
 いくらザグレの公爵家でも今のセイドリックは一応、私(セシル)という事になっているのよ?
 一国の姫に対してほぼ無視って、それはないのでは?

「手合わせしない?」
「は?」
「今から」
「は、はあ?」
「さあ!」
「ちょ、ちょっと!」

 手首を掴まれてガゼボの外へ連れ出される。
 ぽかん、とするセイドリック。
 彼はイフに預けていた剣を持って来させて、鞘から引き抜く。
 ええぇ……と、殿方同士の交流ってこんな感じなの⁉︎

「いかがなさいます? セイドリック様」
「…………。分かりました。私の剣を持ってきて、イフ」
「かしこまりました」

 彼の剣は直剣。
 私の剣は細剣(レイピア)。
 イフから受け取り、鞘から抜く。
 強度、長さ、一撃の威力はあちらが上。
 こちらの長所は突きと速さ。
 手数で翻弄して手首から剣を落とすのが常套。
 剣先にゴム玉を付けて万が一、怪我をさせないようにする。
 相手はにたりと笑む。

「木剣でなくともいいかな?」
「なにを今更」
「ふふ」

 剣先をやや上向きにして、構える。
 エルスティー様も剣先を斜めに上げて私へと向けた。
 ただの手合わせとはいえ、ロンディニアの王族としてあっさり負けるわけにはいかない。
 まして、今の私は『セイドリック』なのだ。
 弟の名誉の為にも、容赦なくいかせてもらいます。

「では」

 イフが一つ咳込む。
 でも、私は彼から目を逸らさない。
 口元には笑みを浮かべたまま。
 失礼な人ね。
 それとも、私が細剣だから舐めてる?
 安い挑発なら乗らないけど、目にものは見せてやりたくなる。

「始め!」

 先手必勝。
 真正面から鍔を目掛けて突きを二回。
 思いのほかあっさりと薙ぎ払われるが、そんなの想定内よ。
 身を回転させ、左足を軸に位置をエルスティー様の右へ回り込み喉を狙う。
 もちろん、寸止めのつもり。
 でも、それも薙ぎ払われた。
 まあ、このくらいはしてもらわねば。
 エルスティー様はこれで私のバランスを崩したと思っただろう。
 すぐに剣を振り下ろす態勢に入るが、その一撃を私はまた可愛い体を回転させながら避ける。
 左足を軸に、また右へ回り込む。
 相手の剣は直剣。
 一撃の重さは、逆に動きの鈍さに繋がる。
 とはいえ、速い。
 思っていたより、この人強い。
 振り下ろしつつ、すぐに軌道を私の移動先へ変えてくるがジャンプして左側へ回り込みつつ腕を引いた。

「終わりです」
「っ!」

 着地と同時に喉元へ。
 ゴム玉で覆われているから、くっつけても怪我にはならない。
 でも、もしこのゴム玉がなければエルスティー様の喉は私の細剣で皮膚に小さな穴が開いていたかもね。

「…………強いな、君」
「これでもロンディニアの王太子ですので」

 足を引く。
 剣を鞘に戻して、胸に手を当てて頭を下げる。
 エルスティー様も剣を収めた。
 多少は殿方同士の交流、できたかしら?
 これが普通なのだとしたら億劫だわ……。

「あの、エルスティー様……この国ではこれが普通の交流のやり方なのですか?」
「え? ……あははは! いやいや、違うよ! ああ、そういえば君は異国の人だものね」

 そんなお腹を抱えて笑うほど……。

「ただの手合わせだよ」
「…………。そうですか」

 そんな感じではないけど。
 ……目が、多分に“なにか”を含んでいるもの。

「でも君は合格かな」
「は、はあ?」








 *********



 翌日は入学式。
 セイドリックとともに制服に身を包み、いざ出陣!
 ……まあ、私が男子制服でセイドリックが女子の制服……なの、だけ、れど……。

「似合うわね……」
「ありがとうございます! ねえさ、じゃない、セイドリックもよく似合っていますよ!」
「あ、ありがとうございます……」

 うちの弟!
 性別が分からない!
 女の私から見ても完璧な淑女。
 元々髪はこの子の趣味で伸ばしていたし、タイツとロングブーツで脚の骨格は完全に隠れている。
 肩幅?
 どこへ消えたのかしらね?
 まあ、まだまだ成長期。
 今の時点では淑女にしか見えないわ。

「お二人とも、大変にお似合いです。ブフゥ!」
「目を見て言いなさい……イフ……」

 あとめちゃくちゃ笑ってるわよ。
 失礼しちゃうわね。
 私なんて、自慢の髪を少し切ったのよ?
 男の子に見えるように!

「確か今日は午前中に式があり、午後からは交流会、夜に夜会……だったわね。昨日のお茶会に参加できなかった分、たくさんの方とお話しするのですよ」
「はい!」

 そして、明日から二ヶ月間は上級、中級、下級クラスへのクラス分け査定期間。
 査定は加点式。
 十点代は下級。
 二十点代が中級。三十点以上で上級クラスへ入れる。
 王族と侯爵家以上は初めから持ち点が『五』あり、それは周知の事実。
 しかし他の加点がどうしたら取れるのかは不明。
 まあ、学力と礼儀作法、武芸などは確実に加点対象だろう。
 そしてそれらが何点なのかは分からない。
 うーん……。
 まあ、私たちは普通に過ごし、テストに関しては全力を尽くせばいいわ。
 王族というアドバンテージがある以上、余程のことがなければ中級クラス以下になる事は多分、ない、はず。

「わあ〜! ここがザグレディア学園なのですね〜」
「ええ、そうですね」

 屋敷から馬車で五分ほど。
 徒歩なら十分。
 大きな門を潜ると左右を丁寧に整えられた花壇。
 中央には大きな噴水。
 すでに多くの生徒がその道を通っている。
 あ、これはまずいわ。
 昨日のお茶会に参加している人たちは、すでに何組かグループができている。
 くぅ、やはり昨日のお茶会に参加できなかったのは痛かった!
 私というよりもセイドリック!
 女という生き物は、あっという間に群れる!
 取り残されたら地獄よ!

「セシル姉様」
「……」
「セシル姉様」
「は、はい!」
「早くお友達を作るよう、頑張ってくださいね」

 にっこり。
 と、危機感を伝えた。
 伝われ!

「え? はい!」

 ……うん、これは伝わってないわね〜。

「オォーッホッホッホッ!」
「「⁉︎」」

 高笑い⁉︎
 どこから⁉︎
 こんな高笑いする淑女が、ザグレの国にいるなんて……!

「とお!」

 とお⁉︎

「シュタッ!」

 ……着地音を自分で言った⁉︎

「オーッホッホッホッ!」
「「……………………」」

 えぇ、わ、私たちの前に……?
 黒髪に赤いリボンのカチューシャ。
 赤い瞳。
 可愛らしい女の子、だけど……え、なに?

「な、なにか?」

 これ、こっちから話しかけなきゃいけないのかしら?
 そう思って首を傾げてみる。

「…………。お前がセシル?」
「…………。はっ! はい!」

 一瞬じとりと睨まれる。
 セイドリックが。
 そして名指しされる。
 ……私が。
 でも、返事をするのはセイドリック。
 これは明らかに変なのに目を付けられたわね。
 大丈夫かしら……。

「おに、っじゃない、エルスおに、あ、いやエルスティーが昨日お前の邸にいたそうね!」
「え? あ、はい」
「きいぃ!」
「え? え?」

 やはり!
 あの人関係かっ!
 おのれ、エルスティー様!
 地団駄を踏む令嬢。
 その目許には涙も!

「いい気にならないでくださいませですわ! おにっ、じゃないエルスティーは誰に対してもそうなんですからなんですわ!」
「え? は、はい」
「ホォッホッホホッ! そ、それに貴女はもう終わりなんですわ! 昨日のお茶会に参加できなかったのは痛恨の極みなのですわ! なにしろ昨日のお茶会は加点対象だったのですわ!」
「⁉︎」
「ホォッホッホっボゲッホッゲホ!」

 高笑いし慣れていないのか、咳込む令嬢。
 その後ろから二人の令嬢が駆け寄ってきてその背中を撫でる。
 そして、彼女たちが「大丈夫ですか、メルティ様」と声を掛けていて私は背筋が凍り付いた。

「メ、メルティ様……? まさか、メルティ・シーラ・ザグレ姫?」
「ゲホゲホっ。こ、こほん! そうです! わたしはメルティ・シーラ・ザグレですわ!」

 どーん、と腰に手を当てて胸を張る。
 う、嘘でしょ⁉︎

「まあ、そうでしたのね。私はロンディニア王国の第三王女、セシル・スカーレット・ロンディニアと申します!」
「え?」

 はっとする。
 隣で上品にお辞儀するセイドリック。
 私も胸に手を当てて、頭を下げる。

「私はロンディニア王国第一王子、セイドリックてスカーレット・ロンディニアです。お会いできて光栄です、姫」
「え、あ、え、ええ!」

 少しあたふたしたあと、改めて胸を張るメルティ姫。
 ……少し驚いたわ、セイドリック……なんて堂々としているのかしら。
 いえ、それでこそ我が国の王太子!
 私の自慢の弟よ!
 でも彼女、今とんでもない事を言わなかった?
 昨日のお茶会が加点対象⁉︎
 っなんて事!

「姫様、上級クラスから漏れた王族の名など覚えなくともよろしいのでは?」
「そうですわ。王族でありながら上級クラスに残れないなんて、程度が知れます。関わらないのが吉ですわ」
「え? あ、ああ、そうね?」

 クスクスと私たちを笑う二人の令嬢。
 容姿はとても似てる。
 双子の姉妹、かしら?
 その双子は扇を口許で広げ、メルティ姫に……こちらに聞こえるように言う。
 うわぁ、仮にも隣国の王族に速攻でかましてきたわ〜!

「…………」

 そりゃね、ザグレは大陸の絶対的リーダーポジション。
 その国の王族は元より一部の貴族も他国の王族相手であっても、このようにマウンティング取ってくる……という話は嫌という程耳に入ってくる。
 国交官はそんなザグレの貴族の無茶振りに、頭を抱える事も多い。
 なるほど、お姫様のご友人という事でこの双子令嬢はこのように、まあ、その、アレなのね。

「そうだったんですね、昨日のお茶会……加点対象だったなんて。教えてくださってありがとうございます!」
「へ?」
「え?」

 ギョッとする双子令嬢。
 セイドリックは満面の笑みでメルティ姫の両手を持ち上げると、お礼を告げたのだ。
 私も一瞬の事で驚いた。
 けれど……。

「メルティ様は親切なんですね! ぜひ、私とお友達になってください! 私、この国に来たばかりでお友達がおりません……。この国について、たくさん教えてください」
「なっ、なっ……」

 カアッと赤くなるメルティ様。
 左右を固めていた双子令嬢の顔!
 わ、笑えてくるほどに歪んでいる。
 恐るべし、我が弟……。
 この嫌味にーーー気付いていない……!

「私とも是非お友達になってください、メルティ様」

 これは便乗しない手はないわ。
 にっこり笑顔でそう告げる。
 メルティ様はますます顔を赤くする。
 ああ、耳まで真っ赤。
 なんだか可愛らしい方。
 登場シーンは……誰かの入れ知恵だったのかしら?

「ぶ、無礼ですわよ!」
「そうですわっ、参りましょう姫様! こんな者たちとこれ以上関わってはいけません!」
「あっ」

 ガシッと左右から腕を掴み、メルティ様を攫っていく双子令嬢。
 慌ててたわね〜。
 ちらっとセイドリックを見ると、少し残念そう。

「もう少しお話したかったです〜」
「そ、そうですね。まあ、メルティ様も制服を着ていましたし、同じ学園に通うのです。またお会いする機会もありますよ」
「はい、そうですね!」

 なんというか。
 まさかとは思うけれど。
 うちの弟、本当に大物なのでは……。


 さて、そんな登校もあったけれど、私たちは滞りなく入学式を終えた。
 この学園の成り立ちと、簡単な校則の説明。
 そしてクラス分けについての説明だった。
 新入生の皆が最も興味を示すところ。
 クラス分けの、加点についてだ。
 教員の説明によると、加点方式に関してはやはり明かされなかった。
 しかし、加点対象となるイベントについては話があり、それは以下の通り。
 今夜の夜会。
 一ヶ月後の夜会。
 そして、二ヶ月後のお茶会。
 多分、学業成績や武芸の成績なども加味されるとは思うがそれは誰でも思い至る事。
 だから説明にはなかった。
 それから、昨日のお茶会についても触れられていない。
 すでに終わったイベントだから、かしら?
 ますますまずいわ。
 貴重な加点対象イベントに参加しなかったなんて。
 ……これは王族のアドバンテージ……持ち点『五』が削られた、と捉えるべきかもしれない。
 王族でありながら中級クラス以下なんて、ロンディニア王国の質が疑われてしまう。
 私たちの成績次第では他国から国交官がバカにされたり、変な無茶振りされたり余計な負担を負わせてしまうかも……。
 王族がバカにされるとーーー。

「おい! そこのお前!」
「はい?」
「お前がロンディニアの第三王女か?」
「? ……はい、そうですが……。失礼ですがどなたでしょうか?」

 式が終わり、交流会への会場へ行く道すがら四角い顔の、たっぷりとしたお腹のなんか残念な感じの殿方が私たちを引き止めた。
 後ろにはこれまたニヤニヤとした顔のご令息が二人。
 あらぁ? この光景、朝も似たようなものを見たような〜?

「クックックッ、ご挨拶だなぁ! わざわざ婚約者が声をかけてやったというのに!」
「え?」
「…………」

 嘘。
 じゃあ、この方が私の婚約者……『シャゴイン』のジーニア様?
 ど、どういう事⁉︎ ジーニア様は国内の学校に行かれたと聞いたのに⁉︎
 それに……これはひどい!
 噂以上にひどい!
 あまり顔立ちの整っておられる方ではないと聞いていたけれど、ここまで⁉︎
 お顔になにやらボツボツとしたニキビ? がびっしり!
 ひええええええぇっ!

「……え? では、あなた様がシャゴインの……」
「そーだ! 俺様がシャゴイン王国王太子! ジーニア・リンザ・シャゴイン様だ! どうだ! 感動で言葉も出まい⁉︎ ぶあーっはっはっはっはっはっはっ!」
「「…………」」

 別な意味で言葉も出ません……。

「しかし、話に聞いていたより大人しそうではないか」

 顎をさすりながらジロジロ、不躾なほどセイドリックを上から下、下から上に舐め回すように見る。
 まるで吟味するかのように。
 …………無礼では?
 その、どんな話を聞いたか知らないけれど、私はどんな風にシャゴインに伝わっているの?
 それにそのジロジロとした気持ちの悪……こほん、不躾なほどの観察は必要?
 生理的にゾワっとするのだけれど?
 いくら王族とはいえ、婚約者とはいえ、そのジロジロは無礼だわ。
 注意した方がいいかしら?
 いや、むしろ殴りたい。
 はっ、いけない! つい女としての本能が!

「ふぅむ、胸もない尻もない……色気がないなぁ」
「………………」

 いや、殺……、んん、落ち着くのよセシル。
 あなたは今セイドリックなの。
 でも姉をこんな風に言われたら、注意はしてもいいわよね。
 物理で。

「まあ、面はいいから許そう! ぶはははは! 卒業の夜会が終わったら、そのまま我が国への輿入れだ! しっかり嫁入りの準備をしておくのだぞ! 我が妻よ! ぶぁーっはっはっはっはっ!」
「「……………………」」

 ニタニタしたご友人を引き連れて、あまり上品でない高笑いしながら去っていくジーニア様。
 うーん、なんというか……言葉にならないわ。

「……」
「大丈夫ですよ」

 セイドリックが心配そうに手を握ってくる。
 私の嫁ぎ先を目の当たりにしたから、心配してくれたのね。
 優しい、私のたった一人の味方……。

「大丈夫。さあ、交流会に行きましょう、姉様」
「は、はい……」

 あの様子では四六時中絡んでくる感じはない。
 大丈夫。
 大丈夫よ。
 私はロンディニア王国の王女だもの。
 この二年間を思う存分謳歌して、後の人生は全て王族としての役割に捧げるわ。
 全ては愛するロンディニアの為に、ね。