わかりきったことだけを、





志葉はいつだって唐突だ。


「…あ、そう」と短く返すと、「素直じゃねえなー」と言って笑われる。志葉が、ゆっくり手を伸ばして私の頬を摘んだ。




「ホント、よく伸びるよなぁ浅岡のほっぺ」

「…いたい」

「嘘つけ」

「…なに、志葉」

「なんも。浅岡が可愛いから触りたくなった」




頬を摘まれた間抜けな顔のまま志葉と目が合った。
ドキリ、心臓が音を立てる。

「可愛い」なんて言葉はもう言われ慣れているはずなのに、志葉に言われるとなんだか恥ずかしくなる。



好きな人から貰う「可愛い」は最強だ。ずるい。

志葉にそう言われたいから、化粧もスキンケアももっと頑張ろうって思ってしまう。



今までは、外見を褒められても特別何かを感じたことは無かったし、むしろ私は見た目だけしか取り柄が無いんだと自覚して悲しくなるくらいだったのに。

志葉の「可愛い」は、私の全部を見てくれている気がする。ホント、なんとなくだけど。



「志葉」

「んー」

「手、…もー離して」

「やだ」

「……ちがくて、」

「ん?」



志葉に恋をした私は、まるで私じゃないみたいだ。




「……手、離したら、ギュッてして」




どうしようもなく志葉に触ってもらいたくて、もっと私を求めて、同じくらい私に溺れて欲しいと思ってしまう。

私はこんな欲張りな女じゃないはずなのに変だなあ。

……まあ、全部志葉のせいにしちゃえばいいか。