私が二十歳になってすぐ、五つ上の兄が結婚した。
新居にお邪魔すると、玄関には式で使ったウェルカムボード、リビングには式中の写真が飾られていた。
デジタルフォトフレームが、指輪の交換や誓いのキス、ケーキ入刀、ファーストバイトなど、様々な場面を絶え間なく映していた。
「私たちの写真は飾らないんですか？ 結婚式とか……」
「式はまだ挙げてないんだ。俺の仕事が忙しく、日にちの調整ができていなくて」
彼は申し訳なさそうに言った。やけに早口だった。
「そうなんですか。じゃあ、他の写真は？」
付き合っていたなら、一枚くらいあるだろう。プリントしていなくたって、スマホにデータがあるはずだ。
追及すると、彼は力なく首を横に振る。
「俺は写真が嫌いなんだ。だから二人で写っているものはない」
「ええ～っ。じゃあ、私だけの写真は？」
「あまり撮ってない」
「がっかり……」
彼にとって、私は記録に残したい被写体じゃなかったってことかな。
