スタッフが注意しに行く前に男は「お前みたいに気持ち悪い趣味を持った女なんて誰も相手にしねーよ!」と吐き捨てて、そそくさと帰っていった。

相手にしてもらえなかったのはてめえだろと思いながらも、俺は静かにバカラグラスに注がれたウイスキーに口をつけていた。


「あの、お会計お願いします……」

女は気まずそうにカウンターにいるスタッフに声をかける。

白いニットに膝丈のフレアスカート。ふんわりとした髪の毛を後ろでひとつに結び、顔まわりにある(おく)れ毛が垂れると、うつ向きながらカバンから財布を取り出していた。

少し子供っぽいリボンのついた財布を見るかぎり、社会人ではないだろうと察する。

ここはチャージ制だし、男のほうはまあまあ酒を飲んでた。払えんのかな、お気の毒に、としらけた気持ちで見ていると女と目が合った。


「あ……」

お互いの声が綺麗に重なる。

薄暗くて気づかなかったけれど、女は俺の知り合いだった。いや、正確には四月に引っ越したばかりのマンションのお隣さんだ。