……見つめられている、と思いながらも、指月は表情も変えずに、エレベーターの階数ボタンの前に立っていた。
ペットボトルを手にした謎の殺人鬼(?)が自分を見つめている。
可愛らしいその殺人鬼はもう一度、ペットボトルに口をつけかけ、うーん、という感じに小首をひねってやめた。
そのままこちらを見て、
「あ、ギョーザ」
と呟く。
ギョーザね……と思いながら、
「飲まないんですか?」
と話しかけてみると、
「いえ、ひとりで飲むのも悪いなと思って。
それにエレベーターで立って飲むのも」
と彼女は言ってくる。
きちんと育てられたお嬢さんのようだ。
また社長はどんな悪辣なことをして、この人に恨まれてるんだ? と思ってしまった。
いや、確か、先祖の恨みとか言っていた。
幾らやり手の社長でも、過去にさかのぼって、この人の先祖の会社に圧力をかけるとかは出来ないから、今回ばかりは社長は関係ないんだろうな、と思いながら、夏菜に、
「じゃあ、座って飲んだらいいじゃないですか」
と言うと、
エレベーターの中にしゃがんで飲んでいるおのれを想像したのか、彼女は、ははは、と笑う。
無邪気な殺し屋だ。



