……見られている。

 見られている。

 何故だ、と思う。

 そのとき、トイレから戻ってくる指月の姿が見えた。

 まるで、指月が自分の連れだとわかっているかのように、マフィアは、すっといなくなった。

 車両からもその気配が消えたころ、指月が席に戻ってきたが、指月は座らずに、今、マフィアが消えた方向を見ていた。

「……今の男、かなりの手練(てだ)れですね。
 何者でしょう。

 社長をずっと見ていたようですが」
と警戒して言ってくる。

「まあ、殺し屋なら、あんな目立つ感じに現れたりはしないと思いますが」
とちょっと笑って指月は腰を下ろした。

「そうだな」

 自分を狙ってくる人間にしては、いきなり突っ込んで来るでもなし。

 隠れて見張っているでもなし。

 だが、そのとき、ふと不安になった。

「上林みたいに用意周到な奴じゃなくて、行き当たりばったりに突っ込んでくる奴がいたら。
 俺が不在なのも知らずに、社長室にいきなり鈍器持っていったりしないだろうか」

 頭の中では、藤原夏菜が暴漢にやられて、きゅう~と目を回したハムスターのように社長室に倒れていた。