「そんな優先度の低いもの、いちいち相手にできるか。
 っていうか、その計画性のなさはなんだ。

 そんなもので俺を撲殺できるとでも思っているのか」
と殺そうとした相手に叱られる。

 ……はい、師匠、と言いそうになってしまった。

 殺人未遂犯さえ、一瞬で従わせそうな雰囲気がこの男にはある、と思いながら、夏菜はちょっと弁解してみた。

「だ、だって、今日、復讐するつもりなんてなかったんですよっ。

 なにかこう、タイミングが合わなくて、なかなか貴方に会うこともできなかったんですけど。

 ちょうど飲み物買ってコンビニから出てきたとき、たまたま交差点をこの車が回ってロータリーに入るのが見えたんで」
と夏菜はガラス張りの向こう、交差点近くのコンビニを指差す。

 視線でその距離を計測し、有生は、
「ほう。
 ずいぶんと脚が速いじゃないか」
と言ってきた。

「すぐに反応するところもいい。
 だが、いつ標的に会ってもいいように、得物(えもの)は常に所持しておくべきだったな」

 ちょっと褒められて嬉しかったので、また、はい、師匠、と言いそうになってしまった。

 この男、こう見えて、人心掌握術を心得ている……! と夏菜は思う。