「人混みは苦手なんだよな」
と辺りを窺いながら有生は言う。

「心を入れ替えて、人に狙われない人間になろうとは思ってるんだが。
 今、入れ替えたところで、前から狙われてる分はどうしようもないから。

 ……俺は大丈夫なんだが、周囲を巻き込みそうでな」

 そうですね。
 この間指月さんを投げたときみたいな華麗な一本背負いをここで決めたら、大変なことになりますよね、と夏菜は苦笑いする。

「大丈夫ですっ。
 社長は私がお守りいたしますからっ」
と言うと、有生は一瞬、表情を止めたあとで、

「……莫迦(ばか)か」
と言いながら、夏菜の左手をつかむと、自分のコートのポケットに突っ込んだ。

 手袋していたので充分暖かかったのだが、より暖かくなる。

 ポケットの中で有生が手を握ったままだったからだ。

 いや、照れるんですけど。

 街中で見かけるラブラブカップルみたいじゃないですか、と思う夏菜に、有生が言ってきた。

「お前が守るな。
 俺に守らせろ。

 ……例え、俺よりお前の方が強くてもな」

 いやいや、そんなことはないですよ、と思いながら、俯いていた顔を上げたが、有生は前を見たままだった。

 その表情は素っ気ない。

 でも、そんなところが好きだな、と思ったとき、周りのみんながスマホや腕時計を見ながら、口々にカウントダウンをはじめた。

 有生も腕時計を見たので、夏菜もそれを覗き込む。