「さっき指月さんに、その緊張感のない顔をどうにかしろと言われましたよ」
と夏菜は屋上で有生に言う。
今日は突風なので、此処まで上がってくる人は誰も居ない。
有生にあとで珈琲を持って行ったら、ちょっと上に上がるかと誘われたのだ。
「それは俺も同感だが」
と言って、珈琲を一口飲んだあとで、有生は、いきなり夏菜の頭に手刀を食らわそうとする。
夏菜はたいして動かずに、右腕だけで、ぱし、とそれを受け止めた。
「……緊張感のないのは顔だけだな」
と手を下ろして有生は言う。
「もうちょっと隙があってもいいんだぞ」
珈琲を飲む有生を見ながら、夏菜はふと思った。
隙といえば、今、こんなところでぼんやりしているのは、隙ではないのだろうかと。
私がではなく、社長が。
四方八方から狙い放題なんだがこの場所。
「しゃ、社長っ。
やっぱり中に入りましょうっ」
と夏菜は訴える。



