ちょっと歩いて頭を冷やし、秘書室に戻ったとき、ドア越しに夏菜が話しているのが聞こえてきた。
「……なにか体術のことに関して、深く悩まれているようなんですよね、指月さん。
大丈夫ですかね?
今度、道場にお誘いしてみましょうか」
「指月さん、真面目ですからね~」
と上林が笑う。
……何故、そんな話になっている。
自分が、どうしても投げ飛ばしてしまうなどと呟いていたからだろうか。
いや、全然違うっ、と思いながらも、指月はなにも聞こえていなかったフリをして、ドアを開け、無言で仕事を続けた。
違う、と夏菜たちに主張すれば、妄想の中で有生を抱き寄せたことや、そう妄想するに至った原因までも話さねばならなくなるからだ。



