「女は恋をすると急に可愛くなるものなのよ」
という昔昔、従姉が言っていたセリフを思い出しながら、指月は廊下を歩いていた。
そうか。
最近、藤原がやけに可愛く見えるのは、きっとそのせいに違いない、と思う。
藤原が社長と恋に落ちたから、可愛くなって。
それで、俺にも可愛く見えるのだろう。
そんなことを考えながら、真剣な顔で廊下を歩く自分を、利南子《りなこ》たちが何故か怖々窺いながら通っていく。
「お、お疲れ様です~っ」
「お疲れ様」
と返しながら、指月の心は少し明るくなっていた。
うん、そうだな。
藤原が可愛く見えるのは、きっと、そのせいだ。
よし、ひとつ懸案事項が片付いたぞ。
では次、と指月は仕事のときと変わらぬ几帳面さで、おのれの感情を整理しようとしていた。
藤原と社長がときどき視線だけで会話をしているのを見て、イラッと来るのは……
イラッと来るのは……。
今度はちょうどいい理由を思いつかずに焦る。
というか、避けたい答えならすぐに見つかるのだが。
それ以外の理由が思いつかず、指月はいろいろ考えてみた。
そして、今度は、夏菜が言っていた言葉が思い当たった。
「指月さんは本当に社長がお好きなんですね」
そうか。
きっと俺は社長が好きなんだ!
最悪の理由を避けるためなら、その方がまだマシだ!
そう思った指月は、迷走したまま、特に急いで持っていく必要もない書類を手に、有生の許を訪ねてみた。



