今夜、あなたに復讐します

 いやいや、夏菜も疲れているはずっ、と思う自分の葛藤など知らない夏菜は鼻歌まじりにエレベーターのボタンを押していた。

 すると、すぐに扉が開き、すっと整った顔の若い男が降りてこようとした。

 が、夏菜を見て止まる。

 夏菜も一瞬、理解ができないように、え……という顔をしていた。

 先に叫んだのは男の方だった。

「なっ、夏菜っ」

「お兄様っ。
 なんで此処に居るんですかっ。

 香港かマカオに高飛びしたんじゃなかったんですかっ?」

「……いや、その二つの選択肢しかないのはお前だろ」
と有生は言ったが。

 夏菜がカンフー映画で広東語(かんとんご)を覚えたのは、そもそもこの兄を含む道場の人間の影響らしいから。

 彼らもそうなのかもしれないが。