(けい)ちゃんちが高層階だけど。

 外の廊下歩いてたら、すごい風だったよなー。

 初めてのマンション暮らしへの不安から、夏菜の妄想は何処までも広がる。

 廊下を歩いていて、突風でマンションから吹き飛ばされそうになったり。

 エレベーターの密室で、実は殺人鬼な男と二人きりになったり。

 自分ちの鍵をなくしたり、暗証番号を忘れたりして、有生が帰ってくるまで、マンション前の茂みで膝を抱えていたり。

 青ざめる夏菜に気づき、有生が機嫌悪く言ってきた。

「なんだ、その顔は。
 俺とマンションで二人きりで暮らすのが嫌なのか」

「はい」

「……はい?」

 なにもオブラートに包むことなく拒絶したので、有生が訊き返してくる。