仕事終わり、指月に促されて社長室まで行った夏菜はドアをノックする。
「藤原夏菜ですっ」
「誰だ」
と有生のよく通る声がした。
夏菜は少し考え、
「ペットボトル殺人鬼ですっ」
と名乗った。
「入れ」
と声がする。
……殺人鬼に入れっておかしいようなと思ったが、それで誰だかわかったからだろう。
広い社長室に入ると、夕日を背にデスクに座る有生はパソコンから書類に視線を動かすついでのようにこちらを見て、
「殺人鬼。
今日一日、我が社のためによく働いたか?」
と訊いてくる。
「どうだった?」
と問われ、
「はい。
すごく楽しかったです。
いい会社のようですね」
と夏菜は答えた。
「でもあの、一人しか狙ってないのに殺人鬼っておかしくないですか?
さっき、指月さんがそうおっしゃってたので、つい、言ってしまいましたけど」
「……先祖の恨みとかいう訳のわからないもので善良な一市民を狙ってくる奴は充分な殺人鬼だ。
藤原夏菜。
何故、先祖の恨みで俺を殺そうとする」



