「申し訳ありません、主人ならまだ仕事で。もうすぐ帰ってくると思うんですが……」
『そうですか』
女性は少し考え込むようなポーズを取ると、再び口を開いた。
『よろしければ、お部屋で待たせていただくことはできませんか?私は湊人さんの婚約者で、二条佐奈と申します』
「えっ、湊人さんの?」
驚く私に、佐奈さんはにっこりと微笑んだ。
『はい。今日はお二人に結婚式の招待状をお持ちしたんです』
「どうぞ」
「ありがとう。失礼します」
インターフォン越しに話したときも感じたけれど、彼女、佐奈さんはまるで絵に描いたようなお嬢様だった。
生まれて一度も染めたことのなさそうな、真っ黒でさらさらの髪。とてもひと夏を越えたとは思えないほど透き通るような白い肌。そしておそらく誰もが目を奪われるだろうお人形さんのように愛らしい顔立ちに大きな瞳。
……すごいな、こんな人が現実に存在するんだ。
「突然押しかけちゃってごめんなさい。夏美さんですよね?」
「そうです……」
やっぱり、佐奈さんも私のことを知ってるの? 驚く私を見て、佐奈さんはにっこりと微笑んだ。
「あの、私のことご存知なんですか?」
「湊人さんからお話は聞いていたので。ぜひお会いしてみたいなって思ってたんです」
ということは、佐奈さんと私が会うのは今日が初めてってことだ。